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【人事向け】ストレスチェックとは何か?手順、目的、有効性を分かりやすく紹介します

(2024年9月15日:追記更新)

ストレスチェックは従業員が50人以上の事業場に実施が義務付けられています。

初めてストレスチェックを行う担当者の方は、どこから手をつけてよいのか分からず途方に暮れているのではないでしょうか。

この記事では、ストレスチェックを初めて行う人事担当者の方でも、重要なポイントがすぐに分かるように大切なエッセンスをギュッと詰め込みました。

すでに何度もストレスチェックを行っている担当者の方にとっても、取り組みを見つめ直すきっかけになるような内容にもなっています。

また後半では、ストレスチェック制度導入以降の「精神障害による労災認定」と「労働者の自殺」の推移をご紹介し、現状におけるストレスチェックの問題点を考えます。

さらに、その問題点の解決策についても考察してみたいと思います。

この記事をお読みいただき、ストレスチェック制度のエッセンスを少しでも受け取っていただけたら幸いです。

ストレスチェックに関するお問い合わせはこちら

ストレスチェック制度とは

ストレスチェック制度とは、「常時雇用する従業員が50名を超える事業場に実施が義務付けられている心理的ストレスを把握するための検査」のことです。

2014(平成26)年6月に労働安全衛生法が改正され、2015(平成27)年12月に施行(義務化)されました。まずは、国が定めるストレスチェック制度の概要を見ていきましょう。


担当者必読の書厚生労働省『ストレスチェック制度実施マニュアル』

根拠となる法律

労働安全衛生法第66条の10に実施が定められています。同法第66条の10第1項には以下の文言が記されています。

「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない」

実施の頻度について

実施頻度は1年以内ごとに1回、定期に行わなければなりません。

ストレスチェック制度の目的

ストレスチェックを行う目的は、

「労働者のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」

とされています。

仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が増加しています。この課題に対処するために事業者が行うこととして、次の2つが定められています。

1.労働者自身のストレスへの気付きを促すこと
2.職場改善を行い、働きやすい職場づくりを進めること

実施が義務づけられている事業場について

常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があります。衛生管理者や産業医の選任義務と同じです。

この場合の「労働者」には、パートタイム労働者や派遣先の派遣労働者も含まれます。

なお、派遣労働者については、常時使用する労働者数には算入されますが、派遣先企業には、派遣労働者にストレスチェック受検の機会を提供する義務はありません。

派遣労働者にストレスチェック受検の機会を提供する義務を負うのは派遣元企業です。

ただ、派遣先企業の集団分析のために、派遣労働者にストレスチェックを受けてもらうことは差し支えありません。

また、ストレスチェックの実施時期に休職している労働者については実施する必要はありません

常時使用される労働者とは

「常時使用する労働者」については「ストレスチェック制度実施マニュアル」に詳しく書かれていますので以下に引用しておきます。

○ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次のいずれの要件をも満たす者をいいます(一般定期健康診断の対象者と同じです)。

①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。

②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

なお、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満である労働者であっても、上記の①の要件を満たし、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数のおおむね2分の1以上である者に対しても、ストレスチェックを実施することが望まれます。

ストレスチェックの実施体制の整備

ストレスチェックを行うに当たって重要な役割を担う実施者、実施事務従事者、ストレスチェック制度担当者について説明します。

実施者

医師、保健師、研修を受けた看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師などの国家資格を持つ者のみがストレスチェックの実施者になることができます。

通常は産業医が実施者になることが想定されますが、メンタルヘルスに詳しくない産業医の場合、実施者として適任とはいえません。その場合は外部から実施者を見つけてくる必要があります。

実施者の主な役割は以下の通りです。
1.高ストレス者の選定基準について専門的な見地から意見を述べる
2.高ストレス者の中から医師との面接指導を要する者を決定する
3.面接指導対象者に対して相談や専門機関の紹介などの支援を行う

実施事務従事者

ストレスチェックの「実施の事務」(実施者の補助)を行います。

業務上、回答結果や高ストレス者の氏名などの個人情報に接するため、罰則付きの守秘義務が課されています。

機微な個人情報に触れる立場にあるため、人事権を持つ管理職などは実施事務従事者になることはできません。役職のない一般職員が担当します。

資格は特に必要ありませんが、国は産業保健スタッフの保健師などが担当することを想定しています。

実施事務従事者が担当する業務には例えば以下のようなものがあります。
1.調査票の回収、内容の確認、データ入力、評価点数の算出など
2.ストレスチェック結果の返却用封筒への封入など
3.ストレスチェック結果の労働者への通知
4.面接指導対象者への面接指導の申出勧奨
5.集団分析の集計

※ストレスチェック業者が提供するシステムを使うと、上記1と5はコンピューターで自動的に行われるので実務としては省略されます。

ストレスチェック制度担当者

ストレスチェックの「実施の事務」以外の事務(健康情報を取り扱わない事務)を担当します。

職場の衛生管理者またはメンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましいと規定されています。

健康情報を取り扱わないため、人事権を持つ管理職でもストレスチェック制度担当者になることができます。

ストレスチェック制度担当者が担う業務には例えば以下のようなものがあります。
1.事業場におけるストレスチェックの実施計画の策定
2.ストレスチェックの実施日時や実施場所等に関する実施者との連絡調整
3.ストレスチェックを実施する外部機関との契約等に関する連絡調整
4.ストレスチェックの実施計画や実施日時等に関する労働者への通知
5.調査票の配布
6.ストレスチェックを受けていない労働者に対する受検の勧奨

※保健師などを常勤で雇用できる大企業を除く中小企業では、実施事務従事者がストレスチェック制度担当者を兼務しているケースがほとんどです。

初めてでも安心!ストレスチェックの具体的な手順

ここからは具体的なストレスチェックの実施方法と手順についてご紹介していきます。

必ず押さえておきたい中心的ルール

ストレスチェックを行う上で絶対に知っておきたい中心的なルールは以下です。

①受検は任意です。事業者には実施義務がありますが、従業員に受検義務はありません
②同意がない限り、検査結果は本人、実施者、実施事務従事者以外は知ることができません
③面接指導対象者に医師の面接を受ける義務はありません。申し出は任意です
④ストレスチェックにおいて従業員に不利益な取り扱いをすることは禁止されています

※受検と医師面接が義務ではなく任意なのは、「様々な事情で受検や面接それ自体が大きな心理的ストレスになる人にまで強制はできない」という理由からです。

以上が、最も重要なルールとなりますので、しっかりと覚えておいてください。

事業者による基本方針の表明

ストレスチェックの実施に責任を負う主体は事業者です。

事業者はまず労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度導入の方針を決定して、それを全従業員に表明します。

ストレスチェックの事前準備

ストレスチェックの運営の中心は衛生委員会です。先ずは衛生委員会で、以下のことを話し合って決定します。

■ 1.ストレスチェックの実施時期と期間 ■
時期と期間は任意で決めることができます。時期については、繁忙期を避けている企業が多い印象です。

期間については私の経験上、2週間から4週間としている事業場が大部分を占めています。


■ 2.全て自前で行うか外注するか ■
全てを自前で行うことは技術的にかなり難しいと思います。

ストレスチェックのシステムを提供している会社がたくさんありますので、機能と費用を見比べて選定してください。料金はそれこそピンキリです。


■ 3.実施体制の整備 ■
実施者、実施事務従事者、ストレスチェック制度担当者を誰にするかを決めます。


■ 4.受検の媒体について ■
ストレスチェックを紙で行うかWebで行うかを決めます(併用もできます)。

Web実施だとメールアドレスが必要です。Web実施はとても便利ですが、工場などでメールアドレスを持たない従業員が多い場合は紙を選択します。


■ 5.ストレスチェックで使う調査票(質問紙)と質問内容 ■
検査には調査票(質問紙のことです)を用います。調査票は各事業場で自由に作ることができますが、以下の3項目を必ず含めなければなりません。

①仕事のストレス要因
②心身のストレス反応
③周囲のサポート

質問項目まで自分たちで考えるのはとても難しいので、厚生労働省から出されている「職業性ストレス簡易調査票57問」を用いるのが最も現実的です。

職場のストレス状況、上司のハラスメント、働きがい(エンゲージメント)などを調べることができる80問の調査票も提供されています。


■ 6.高ストレス者の選定方法 ■
独自に設定できますが、かなりの有識者でなければ選定基準の根拠づけが困難なため、厚生労働省が定める算定方法を用いるのが現実的です。

①単純合計と②素点換算法が「ストレスチェック制度実施マニュアル」に記載されていますので参考にしてください。

ちなみに、各項目間の計算結果の「重み」が補正されているという理由から、素点換算法の使用をお勧めします。

より広く高ストレス者を拾い上げたいということでしたら、①と②の両方を使っても問題ありません。


■ 7.面接指導を行う医師を誰にするか ■
ストレスチェック制度の面接指導を行えるのは医師だけです。逆にいうと医師であれば法的には誰でも構いません。

とはいえ、個別の心理的ストレスに対するセルフケアを指導する立場にあるわけですから、メンタルヘルスのセルフケアに関する専門知識を持つ医師でなければなりません。

精神科医であれば大丈夫ということでもありませんのでご注意を。


■ 8.実施規程を作成する ■
衛生委員会での調査審議の結果をもとに、事業者はストレスチェックの実施規程を作成します。従業員であれば誰でも読める状態にしておく必要があります。

「ストレスチェック制度実施マニュアル」に、実施規程のひな型が掲載されていますので、それを参考にして作成することで十分です。


※実はこれだけではなく、他にも衛生委員会で審議する項目がたくさん定められていますので、必ず「ストレスチェック制度実施マニュアル」を併せてご覧ください。

ストレスチェックの実施

事前準備が整いましたら受検を開始します。

受検案内メールの配信または調査票の配布

【Web実施】
Web実施の場合は、契約した業者のシステムから受検対象者に受検案内メールを配信します(どの業者のシステムを使ってもワンクリックで対象者全員にメールが配信される仕様になっています)。

【紙実施】
紙実施の場合はシステムから調査票を印刷して受検対象者に配布します。未回答の調査票は健康情報に当たりませんので、ストレスチェック制度担当者の他、誰が配布しても構いません。

ただ、直属の上司から配布されると、(その組織の文化や風土にもよりますが)受検者が、「個人情報が上司に漏れるのではないか」との不必要な疑念を抱く可能性がありますのでお勧めしません。

Web上での回答および調査票の回収

【Web実施】
受検案内メールに記載されているURLをクリックするとPC上で受検することができます。全ての回答が終わると自動的にストレスチェック結果が画面に表示され、それを受検者が確認したらストレスチェックは終了です。

標準的な57問の調査票で5~10分、80問の調査票で10~15分で終わります。あっという間ですね。

【紙実施】
こちらはかなり手続きが複雑になります。

調査票はマークシートまたは○付け式になっています。受検者は鉛筆で質問に回答します。

回答が終わったら調査票を封筒に入れて封(糊付け)をします。その封筒をストレスチェック制度担当者または実施事務従事者が回収します。

封筒が糊付けされていれば直属の上司が回収することもできますが、こちらも受検者に不必要な疑念(中身を見られるのではないか)を抱かせることになりかねませんのでお勧めしません。

回収が終わったら実施者または実施事務従事者が結果を集計し一人ひとりのストレスチェック結果を作成します。

マークシートの読み取り機器が必要となりますので、購入でもしない限り(かなり高額です)、自前で集計することは容易ではありません(ほとんど不可能です)。

多くのストレスチェック業者が、調査票からストレスチェック結果の出力を代行していますので、そちらを利用するしかありません。

次に、ストレスチェック結果を返却用の封筒(透けない封筒を使ってください)に入れて封をします。

この作業はストレスチェック結果という健康に関する機微情報に触れるため、実施者または実施事務従事者しか行うことができません

最後に、この封筒を受検者に返却してストレスチェックは終了となります。

こちらも直属の上司や人事権を持つストレスチェック制度担当者が返却することもできますが、ここはやはり人事権を持たない実施事務従事者から返却することをお勧めします。

受検勧奨メールの配信または社内アナウンス

ところで、ストレスチェックのひとつ目の手段は「労働者自身のストレスへの気付きを促すこと」でしたね。

ということは、受検しなければ何の意味もありません。一人でも多くの方に受検してもらうため、受検の勧奨を行います。

【Web実施】
ほとんどのシステムに受検勧奨メールの配信機能が装備されています。メールの文面を作成したらワンクリックで未受検者全員に受検勧奨メールを配信することができます。

受検勧奨の回数は、実施期間中に2~3回がよいと思います。

あまりに促しが多いと苦情が出たり、かえって受検しない意志を固めさせてしまったりしますので気をつけてください。

【紙実施】
未受検者の氏名を事業者が把握して、上司などから直接、未受検者に受検勧奨することは法的には禁止されていません。

しかしこちらも受検者に要らぬ疑念を抱かせることになりかねませんので、控えるのが良いと思います。

紙受検の場合は朝礼などで、「まだ受けていない方はぜひ受検しましょう」と、個人を特定しないかたちで広くアナウンスしたり、受検の促しをポスター掲示したりするのが良いと思います。

※なお従業員は、ストレスチェック結果を見て自分のストレスに気づき、自ら対処していくことになりますが、実際どうするかは完全に従業員に任されています

高ストレス者の抽出と通知

ストレスチェックが終了しましたら、実施者または実施事務従事者が、衛生委員会で決めた算定方法に従って高ストレス者を抽出し、本人に通知します。

結果と同じタイミングで通知することも可能です(二度手間にならないので、こちらをお勧めします)。

【Web実施】
システムに予め計算方法を設定しておけば自動で高ストレス者を抽出してくれます。結果を表示する画面に、「高ストレス者に該当します」と表示すれば通知は終わりです。

【紙実施】
マークシートの調査票を読み込んでストレスチェック結果を出力するときに、「高ストレス者に該当します」と印刷することができます。

この記載を受検者が読むことで通知は終わりです。

医師による面接指導

受検と結果の通知が終了しましたら、次は医師による面接指導の段階に入ります。

面接指導対象者の選定

高ストレス者の中から面接指導対象者を実施者が選定します。

必ず実施者によって人為的に選定されたことを物理的な痕跡として残さなければなりません。実施者の手を一切介さずにシステム上で自動的に面接指導対象者を選定することはできません。

【Web実施】
実施者がシステム内の面接指導対象者の選定機能を操作することで面接指導対象者を決定します。

【紙実施】
マークシートなどからシステムに取り込まれたデータをもとに、実施者がシステム内の面接指導対象者の選定機能を操作することで面接指導対象者を決定します。

面接指導対象者に向けて面接勧奨メールを配信またはアナウンス

実施者または実施事務従事者から面接指導対象者に対して、「面接指導を受けませんか?」と、面接指導をお勧めする通知を出します。

【Web実施】
受検を勧奨するメール配信と同様に、システムからワンクリックで面接指導対象者に向けて面接勧奨メールを配信することができます。

面接指導の申し出がない対象者には、安全配慮義務の観点から追加で面接勧奨を行いましょう。追加の勧奨回数は1~2回がよいと思います。

あまりにも勧奨が多いと、うっとうしく感じてしまい、次回はあえて高ストレス者にならないように回答されてしまいます。注意してください。

面接勧奨メールには以下の内容を記載しておきます。
1.申出期間
2.申出窓口の連絡先
3.面接指導に申し出たら、氏名とストレスチェック結果が事業者に開示される決まりになっていますので、その旨をしっかり明記しておいてください。

【紙実施】
面接の勧奨は第三者に推測されない方法で行う必要があります。電話や封書は推測されやすいので控えてください。

ストレスチェック結果を返却する封筒に面接勧奨文を同封することをお勧めします。記載内容は【Web実施】と同じです。

面接指導の受付および日程調整

面接指導の申し出と同時に、氏名とストレスチェック結果の開示に同意したものとみなされるため、申し出の窓口には誰がなっても法的には構いません。

しかし、誰もが申し出をしやすいように、人事権を持たない実施事務従事者が窓口になることをお勧めします。

【Web実施】
面接指導の予約機能を搭載したシステムを提供しているストレスチェック業者もあります。面接指導を実施する医師と調整のうえ、使いやすいシステムを選択すると良いでしょう。

【紙実施】
窓口に申し出が入りましたら、都合の良い日時を何度か調整して実施日を設定します。記録を残しておくために、できればメールを使用することをお勧めします。

医師による面接指導の実施

面接指導を行う場所はプライバシーが守られれば社内でも社外でも構いません。

オンラインでの面接指導も可能ですが、推奨される条件について厚生労働省から通達が出されていますので参考にしてください。

『情報通信機器を用いた医師による面接指導の実施について』


ちなみに、電話による面接指導は禁止されています。

面接指導の際に医師が記載する書類は、「面接指導結果報告書兼意見書」の【高ストレス者用】となります(厚生労働省の書式はこちら)。

必要に応じて就業措置を講じる

面接指導が終わると医師から「面接指導結果報告書兼意見書」が発行されます。同時に、面接を行った医師から意見を聴取します。

事業者は意見書や聴取した内容などを考慮の上、必要に応じて就業上の措置を講じます。

集団分析と職場環境の改善

メンタルヘルス不調とは、「個人要因」と「環境要因」の相互作用で発生します。個人に対して事業者は、ストレスへの気づきを促すための検査を提供します。

しかしこれだけでは不十分です。環境が変わらなければ、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことは困難です。

個人が自分のストレスに気づいて正しい方法でケアをする。それに加えて、メンタルヘルス不調が生じやすい職場環境を改善すれば、それこそ鬼に金棒です。

集団分析の実施(※自動的に行われる)

集団分析の実施は現在のところ努力義務ですが、ストレスチェックのシステムには例外なく自動的に集団分析を行う機能が搭載されています。

したがって、ストレスチェックさえ行えば、集団分析も自動的に実施されることになります。

集団分析のツール

集団分析とは、各職場のストレス状況をグラフと総合健康リスクという数字で表したものです。

詳しくは、厚生労働省が推奨する「仕事のストレス判定図」をご覧ください。

ちなみに、この「仕事のストレス判定図」は、個人が特定されない仕組みになっていますので、安心して使うことができます。

受検してもらってこその集団分析

集団分析の元になるデータは、もちろん従業員が回答したストレスチェックデータです(57問のうち12問を使用して算出しています)。

ということは多くの従業員に受検してもらい、同時に、正直に答えてもらう必要があります。

したがって、事業者がストレスチェックの実施を表明する際には、以下のことを何度も声を大にして伝えてください。

①結果のデータを元に集団分析を行い、職場環境の改善を行う
②事業者は同意がない限り、絶対に個人のストレスチェック結果を見ない
③だから安心して全ての従業員が受検して、そして正直に答えてほしい

職場環境改善の取り組みと「断行」

集団分析なんてコンピューターが勝手に集計してくれます。

時々、「立派な集団分析結果報告」を求める経営層を見かけますが、それは大きな勘違いです。

いくら資料が立派でも、集団分析で分かるのは、「この組織は、仕事が多いのに裁量権がなく、上司も同僚も助けてくれないと回答した人が多い」ということだけです。

具体的に何が問題になっているのかは、調べてみないと分かりません。この調べてみるということが職場環境改善の取り組みの入り口になります。

残念ながら、一生懸命に時間と工数をかけて、立派な『集団分析結果報告書』を作り上層部に説明したのに、その後、実際に職場環境の改善を断行した事業者を私はほとんど見たことがありません。

繰り返しますが、集団分析で分かるのは、「そう回答した人が多い」ということだけです。事業主の方にお願いしたいのは、「満足できる立派な報告書」ではなく、「職場環境改善の断行」です。

行政への実施報告

最後に労働基準監督署へ実施状況を報告します。

労働基準監督署への実施状況の報告

厚生労働省指定の「検査結果等報告書」に必要事項を記入して、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。

※厚生労働省指定『検査結果等報告書

この報告書はストレスチェックシステムを使えば自動的に出力され印刷できます。必要事項が自動入力されますのでとても便利です。

報告書を労働基準監督署へ提出すれば、その年のストレスチェック業務は完了となります。

ストレスチェック制度の禁止事項について

ストレスチェック結果および面接指導の申出などを理由として、労働者に対して不利益な取扱いを行うことは禁止されています。具体的な内容を以下に示します。

不利益な取扱いの禁止

以下の事柄を理由として、労働者に対して不利益な取扱いを行うことは禁止されています。

①ストレスチェックを受検しないこと
②ストレスチェック結果を事業者に提供することに同意しないこと
③面接指導の申出をしたこと
④面接指導の申出をしないこと
⑤面接指導結果の内容

事業者がしてはならないこと

具体的な「不利益な取扱い」とは以下です。

a)解雇すること
b)労働契約の更新を行わないこと
c)退職勧奨を行うこと
d)不当な配置転換をすること
e)不当な職位の変更をすること
f)その他の労働関係法令に違反する措置を講じること

ストレスチェックの罰則について

ストレスチェックの罰則については、実施しなかったことによる直接の罰則は規定されていません。しかし、労働基準監督署への実施状況報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には50万円以下の罰金に処されます。

【罰則】労働安全衛生法第120条

【労働安全衛生法第120条】

次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する

五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

便利な外部サイトとサポートダイヤル

困った時にとても頼りになる外部サイトとサポートダイヤルをご紹介します。

厚生労働省のホームページ

↓↓ストレスチェックに関する情報が満載でとても便利なサイトです↓↓
ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等

ストレスチェック制度サポートダイヤル

0570-031050 (全国統一ナビダイヤル)※通話料がかかります。

ストレスチェックの実施方法、実施体制、不利益な取扱いなどに関して相談することができます。

受付時間
平日10時~17時(土曜、日曜、祝日、12月29日~1月3日は除く)

※ストレスチェック制度に関するさまざまな疑問に答えてくれる、とても便利なサポート窓口です。私も頻繁に使っています。

全国の産業保健総合支援センター

上記のサポートダイヤルがつながりにくい場合は、最寄りの産業保健総合支援センター(さんぽセンター)へ問い合わせることもできます。

さんぽセンターの所在一覧はこちら

事業場を管轄する労働基準監督署

例えば、
「こういう雇用契約をしている従業員は常時雇用する労働者に含まれるのか?」
「こういう勤務形態の従業員はどちらの事業場に算入すれば良いのか?」

など、個別具体的な困りごとの相談は、事業場を管轄する労働基準監督署へ問い合わせることをお勧めします。

全国の労働基準監督署の所在一覧はこちら


以上でストレスチェックの手順の紹介は終わりになります。

この記事を参考にしていただき、ストレスチェックを初めて担当する方の不安が少しでも小さくなれば、これ以上の喜びはありません。

◇◇◇◇

さて、次章以降はストレスチェックの実際の効果について、客観的な数字をもとに考察してみたいと思います。

制度が導入されて精神疾患は減少したか?

本題に入る前に用語の定義づけをしておきます。

■精神障害:行政用語として使っています
■精神疾患:診断がつく心の病気のことです
■メンタルヘルス不調:精神疾患だけでなく診断が付かない精神的不調も含むものです


2015年12月にストレスチェック制度が義務化されて以降、精神疾患は減っているのでしょうか、それとも増えているのでしょうか。

先ずは厚生労働省が公表している客観的な数字を確認してみましょう。

制度導入後の精神障害による労災認定件数の推移

ストレスチェック制度が義務化されたのは2015年12月です。

そしてほとんどの事業場が2016年からストレスチェックを始めており、実際に効果が現れるのは2017年以降と思われます。

2017年以降の労災認定件数を見ると、減るどころか、驚くほど増加しています。激増といっても良いでしょう。2010年と比べるとほぼ3倍の増加です。

このデータは、常時雇用する労働者が50人未満の事業場(ストレスチェックの実施義務なし)も含まれているので参考データとなります。

しかし、50人未満の事業場だけでこの数字を押し上げているとは考えにくく、現状ではストレスチェック制度に精神障害の労災認定件数を減らす効果はないと考えて良さそうです。

一方で自殺の労災認定件数は、多少の増減はありますが、ほぼ横ばいでした。おそらく自殺者数の増減は、人口動態や自殺の好発年齢層の変化などが影響しているのではないかと思われます。

※出典:精神障害の労災補償状況


制度導入後の労働者の自殺の推移

次に労働者の自殺の推移を見てみましょう(こちらは労災とは無関係の数字も含まれます)。

青い線は、仕事を持つ人(有職者)の自殺の推移です。仕事を持つ人全体の数値ですので、50人未満の事業場の自殺者も含まれていると思われ、したがってこちらも参考値になります。

仕事を持つ人の自殺者数は、何らかの理由で2014年以降減少し、ストレスチェックの効果が現れると思われる2017年以降は横ばいとなっています。そして2019年以降は増加に転じています。

オレンジの線は、勤務問題が原因・動機と考えられる自殺の推移です(こちらも50人未満の事業場の自殺者が含まれていると思われます)。

長年横ばいか微減で推移し、直近の2年は1,000人以上の増加に転じています。

自殺者数の推移には年齢構成の変化や社会情勢などの外的な要因が影響していると思われますが、いずれにしてもストレスチェック制度に労働者の自殺を減少させる効果はなさそうです。

※出典:令和5年中における自殺の状況


制度導入後の精神疾患による休職者と退職者の割合の推移

こちらはストレスチェックの実施義務がある常時50人以上の労働者を雇用している事業場のデータです。

精神疾患によって連続1か月以上休職している労働者割合の推移と、精神疾患が原因で退職した労働者割合の推移を表しています(2018年と2019年のデータはありませんでした)。

精神疾患による休職者の割合は、ストレスチェックの効果が現れると思われる2017年以降、右肩上がりで増加しています。

精神疾患による退職者の割合は、2017年以降減少したように見えますが、2020年以降は緩やかに増加しています。

残念ながらストレスチェック制度には、精神疾患による休職と退職を予防する効果もないようです。

※出典:労働安全衛生調査(実態調査)


衝撃的な結果となりました!

ストレスチェックの効果が現れ始めると思われる2017年以降、精神障害による労災認定は急激に増加、自殺の労災認定は横ばいで減少していません。

勤務問題が原因・動機と思われる自殺は直近で1,000人以上の増加でした。

ストレスチェックの実施義務がある事業場の休職者は右肩上がり、退職者は増加傾向という残念な結果となってしまいました。

現状のストレスチェック制度には、メンタルヘルス不調を未然に防止する効果はないと言わざるをえない結果となってしまいました。

ストレスチェック制度には何が足りないのか

ここからは、単に制度を批判するのではなく、どうすればストレスチェックを効果的なものにできるのかを考えていきたいと思います。

それには先ず敵を知らなければなりません。メンタルヘルス不調とは一体何なのでしょうか。

実はこれはとても難しい問いになります。現在世界中で使用されているDSM-5という精神疾患の診断基準は、「精神疾患とは何か」を診断基準に用いることをとっくの昔に放棄しています。

それほど難しい問いになるため、ここからは私の臨床経験からの考察が多くなることをご了承ください。

以下の3段論法で考察してみたいと思います。

■メンタルヘルス不調を理解する
■メンタルヘルス不調にストレスチェック制度は合致しているのか
■もし合致していないのならばどう対処すれば良いのか

メンタルヘルス不調を理解する

先ずはメンタルヘルス不調の全てに当てはまると思われる特徴を定義づけしてみましょう。私の考える根本的な定義は以下です。

「メンタルヘルス不調とは、強いネガティブ感情があり、外界の事実認識がより主観的になり、自分を苦しめる行動を選択し、それが最も安全だと誤認して実行した結果、生物的にも社会的にも障害を引き起こしている状態のこと」

要するにメンタルヘルス不調とは、自分のストレスと不合理な行動に自分自身で気づけなくなっている状態のことだと考えています。

さてここでストレスチェックの目的をおさらいしてみましょう。それは、「労働者のメンタルヘルス不調の未然防止」でしたね。

そのために事業者が行うひとつ目の手段は、「労働者へのストレスへの気づきを促すこと」でした。

しかし、その現実の手法とは、「労働者自身がストレスチェック結果を読む」ということだけです。「ストレスが高い状態です」と紙や画面から教えられても、自分を苦しめている不合理な行動を合理的な行動に変化させることはきわめて困難です。

なぜなら、本人自身がその行動が自分を苦しめる不合理な行動だと気づいておらず、さらに、その行動が最も安全だと誤認しているからです。

メンタルヘルス不調にストレスチェック制度は合致しているのか

自分で気づくのが困難ならば、誰かが「行動を変えたほうが良い」と教えてあげなければなりません(例えば、「手伝うから今日は早く帰って寝よう」など)。

しかしちょっと待ってください。会社も上司も同僚も、受検者のストレスチェック結果を知ってはいけないことになっています。さて困りました。

実は、受検者にとってのストレスチェック制度とは、「ちゃんと自分で気づいてください。気づいたら自分で何とかしてください」という冷たい制度です。

個人情報の保護を最優先に制度設計したために、きわめて強い自己責任原則が貫かれている制度になってしまいました。

このような現行のストレスチェック制度の手法は、メンタルヘルス不調の未然防止の目的達成に合致していないといえるでしょう。

もし合致していないのならばどう対処すれば良いのか

「自分で自分のストレス状況に気づきケアをすることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ」というストレスチェック制度が想定する手法に効果がないのなら、ストレスチェック制度は無駄なものなのでしょうか。

そうとも言い切れません。

メンタルヘルス不調の未然防止のための、ふたつ目の手段を思い出してください。それは職場環境の改善です(今のところ実施は努力義務ですが)。

メンタルヘルス不調とは、「個人要因」と「環境要因」の相互作用で生じることは先に述べました。

「受検して結果を読むこと」に効果がないのだとしたら、環境要因に働きかけるしかありません。

職場環境改善には集団分析結果を用いますが、集団分析は受検が終了するとシステムが勝手に集計してくれます。努力義務もなにもありません。

事業者はぜひ総合健康リスクが高い組織を調査して、ストレスの元を把握し(ほとんどが上司です)、それに対処してほしいと思います。

順序が逆|職場環境改善こそ義務化すべき

私は常々思っていますが、ストレスチェック制度は義務化の順序が逆なのです。

受検結果を通知したり、医師による面接指導を義務化したりするより先に、職場環境改善を義務化すべきでした。

職場環境の改善に取り組むことこそストレスチェックの本来の目的であると考えています。

ストレスチェックの目的を達成するための手段

以上を踏まえて、現行の制度を使いながらメンタルヘルス不調を未然に防止するための手段について考えてみましょう。

手段1)職場環境改善の断行

ストレスを「自分で知って自分でケアする」という、個人要因だけへのアプローチでは効果が期待できないのであれば、環境要因にアプローチするしかありません。

ぜひ職場環境改善を断行してほしいと思います。

集団分析結果を見たり報告させたりして終わりにするのではなく、総合健康リスクが高い組織を重点的に調査してください。そして問題を明確にしてください。

問題が明確になったら、必ずその問題を解消する行動を起こしてください。

もしパワハラの存在が明らかになった場合には、迷わず早急に対処してほしいと思っています。

なぜならパワハラは、精神障害による労災認定の出来事別の件数で、(パワーハラスメントの項目が新設された)2020(令和2)年度以降、常に断トツでトップだからです。

※出典:厚生労働省『精神障害による労災補償状況 表2-8』より



さらに事業者にお願いしたいのは、我が国独特の雇用形態であるメンバーシップ型雇用からの脱却を進めていただきたいと思います。

私はメンバーシップ型雇用こそが、過重労働とパワハラの温床になっていると考えています。

①新卒一括採用
②年功序列賃金
③マネジメント能力ではなく勤続年数で管理職に登用される
④会社の命令で何でもする曖昧な業務範囲

というメンバーシップ型雇用から、

①適時適材適所による採用(採用権を人事部門から現場へ)
②能力に合わせた賃金体系
③マネジメントのプロを管理職に登用する
④雇用契約書に明記された明確な業務範囲

というジョブ型雇用への転換を図っていただきたいと考えています。

とても時間の掛かる息の長い取り組みになりますが、先進国の中でも突出した我が国のメンタルヘルス不調の多さを改善するためにも、根気強く続けていただきたいと願っています。

手段2)メンタルヘルス不調に関する情報提供

もうひとつは、全従業員に向けたメンタルヘルスに関する情報の提供です。その手法のひとつがセルフケア研修だと考えます。

自己責任でのケアが難しいのならば、全ての従業員に向けて「自分では気づけなくなるというメンタルヘルス不調の特徴」と、「ケアの方法」を伝えて実践してもらうのです。

従業員の興味をセルフケア研修に向かわせる動機づけに、ストレスチェックを受検したという経験はきっと生きてくるはずです。

やはりストレスチェックを行うだけでは不十分です。

自分のストレスチェック結果を読んだ従業員に対して、事業者が正しいケアの方法を伝える。そうすることで初めて、メンタルヘルス不調の未然防止につながるのだと思います。

以上より、メンタルヘルス不調を未然に防止するために必要な手段は、

1. 職場環境改善の断行
2. 正しい情報提供

この2点になると考えます。

まとめ

繰り返しになりますが、国が考えるストレスチェックの目的は下記です。

■目的:「メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」


そしてその目的を達成するために国が想定している手段が次の2つです。
1.労働者自身のストレスへの気付きを促すこと(結果を読むこと)
2.職場改善を行い、働きやすい職場づくりを進めること

しかし私は、目的を達成するための義務化の順序が逆になっていると考えています。メンタルヘルス不調を未然に防止するために必要な手段は次のようになると考えます。

第1の手段)職場環境改善の断行
第2の手段)メンタルヘルス不調に関する正しい情報の提供


メンタルヘルス不調を未然に防止するためのストレスチェック制度とは何なのか。その答えは、
「事業者は集団分析を行うためにストレスチェックを実施する。そして必ず職場環境を改善する。だから全員が受検して、正直に答えてほしい」

「さらに、従業員一人ひとりに対して、ストレスチェック結果を読むだけでは気づくことができない、メンタルヘルス不調に関する正しい情報を研修というかたちで提供する。その情報をもとに自身のストレス状況に改めて気づき、そして自分自身をケアしてほしい」


この、経営戦略上の営みこそストレスチェックを行う意義にほかなりません。

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ストレスチェック制度の概要、流れ、エッセンスについて論じてきました。法的な義務としてコストを掛けて行うのですから、ぜひ実りあるものにしていきましょう!

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。