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HSPを知ろう!カウンセリングで治る?その効果と注意点について

(2023年10月28日:追記更新)

近年、HSP(Highly Sensitive Person)という言葉を目にする機会が増えています。

多くの著名人が「私はHSPです」とカミングアウトして注目を集めたり、SNS上ではHSPを自認する人たちが盛んに情報を発信したりしています。

HSPを入り口にして診察に誘導しようとするメンタルクリニックや、HSP専門というカウンセラーも見かけるようになりました。賛否両論入り混じり、盛り上がりを見せているようです。

この記事では、HSPの特徴について簡単に整理したうえで、HSPブームの注意点と、HSPに対するカウンセリングのあり方について考察してみたいと思います。

HSPとは?

HSP(Highly Sensitive Person)とは、米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が、1996年に提唱した概念です。

日本では「とても敏感な人」または「ひといちばい敏感な人」などと訳されています。

HSPは病気や障害ではなく、単に特徴を表す心理学的な概念とのことです。統計的には人類の約20%がHSPに該当するそうです。

HSP判定の条件と診断について

HSPに必要不可欠な4つの条件と診断テストについて紹介します。

HSPに必要不可欠な4条件(DOES)

1. 物事を深く処理する(Depth of processing)

2. 過剰に刺激を受けやすい(being easily Overstimulated)

3. 全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い(being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular)

4. ささいな刺激を察知する(being aware of Subtle Stimuli)


※出典:『ひといちばい敏感な子』エレイン・N・アーロン著 青春出版社



アーロン博士は、これら4項目のうち1つでも当てはまらない項目があれば、「おそらくHSPではない」と述べています。

▶「DOES」のさらに詳しい情報はこちらをご覧ください。

自己診断テスト(23項目)

アーロン博士は、自己診断テストの設問として23項目を挙げています。

23項目のうち12項目に当てはまれば、または1項目でも極端に強く当てはまれば、あなたは「アーロン博士の提唱するHSP」ということになります。

▶実際の自己診断テストはこちらです。(娯楽として楽しみましょう)

HSPの特徴は多岐にわたる

この他にも多彩な特徴がたくさんあるようです。いくつか例を挙げてみましょう。

心の特徴(7項目)

①間違いを指摘したり、間違いを避けたりすることに長けている
②とても良心的である
③周りに気を散らすものがなければ、深く集中することができる
④慎重さ、正確さ、速さ、小さな違いを見つけることなどが必要とされる仕事が得意
⑤自分個人の考えについて思いをめぐらせることが多い
⑥学んだことに気づかずに学んでしまっていることがある
⑦周りの気分や感情に大きく左右される

体の特徴(6項目)

①かすかな振動にも気づく
②空気中の物質に敏感である
③じっとしているのが得意だ
④朝型人間
⑤カフェインなどの刺激に影響されやすい
⑥より右脳的であり、論理的、直線的というよりは創造的、総合的なアプローチを取る

その他の特徴

「芸術的である」
「ひどい子供時代を経験している」
「激しく恋に落ちる」
「しつこいほど告白する」
「外向的なタイプもいる」
「刺激を求めるタイプもいる」 etc.


※出典:『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』エレイン・N・アーロン著 講談社



たくさんあり過ぎてここでは紹介しきれません。興味のある方はぜひネットで検索してみてください。

「私はHSPだろうか?」と悩んだら、アーロン博士の本(『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』講談社)を読むことをお勧めします。

この本を読んで、「自分に当てはまる」と思えば、あなたはHSPということになります。

医師やカウンセラーに診断してもらう必要は全くありませんし、診断するという性質のものでもありません。

▶関連情報:「HSPあるある」についてはこちらをご覧ください。

HSPって生きづらい人のことなの?

盛り上がりの背景にある「生きづらさ」

私がHSPという言葉を初めて知ったのは2019年ころだったと記憶しています。アーロン博士が概念を提唱してから20年以上が経過していました。

2019年ころといえば、HSPを「繊細さん」と表現する本が話題になっていた頃と重なります。

その後、急速にマスメディアやSNSを中心に話題になっていったようです。どういうわけか、「HSPだから自信がない」、「HSPだから不安になりやすい」、「HSPだから疲れやすい」といった、「生きづらさ」とセットになって語られています。


※HSPと仕事の関係についてはこちらをご覧ください。

HSPの「生きづらさ」とは何?

では、この「生きづらさ」は、一体どこからくるのでしょうか?

HSPと「生きづらさ」を考えるうえで2つのことが問題になります。それは、「HSPだから生きづらい」のか、それとも、「環境(社会)がHSPを生きづらくしているのか」です。

アーロン博士の本を読むと、HSPを生きづらくしているのは、「戦場の開拓や拡張に価値があるビジネス社会」であると述べています。

ビジネス社会がHSPの特性を過小評価し、その圧力にHSPは強く影響されているのだとしています。

一方でアーロン博士は、HSPだから不安になりやすい人、疲れやすい人、刺激を受けると体調を崩す人がいるとも述べています。

結局、HSPが生きづらいのは社会的なものなのか、それとも生まれつきのものなのか、よく分かりませんでした。どちらもあるのでしょう。

そもそも人類の約20%を占めるというHSPを、ひとつの概念にまとめるということ自体が難しいのだと思います。

実際には「特徴」と「社会」が複雑に影響しあいながら、人の数だけ「生きづらさ」が存在しているのだと思います。すなわち、「遺伝と環境の相互作用」ですね。

「生きづらさ」の概念化で危惧されること

HSPを自認する方に気をつけてほしいことが2つあります。

ひとつは、「私はHSPだから積極的に社会参加できない」と決めつけないこと。もうひとつは、「私が生きづらいのは社会が悪い」と一方的に社会を恨まないでほしいということです。

漠然としていた「生きづらさ」にHSPという言葉が与えられると、「私だけではないんだ」と霧が晴れるように視界が明るくなり、とても大きな安心感を得ることができます。

その一方で、「生きづらさ」にHSPという名前がついて社会の共通認識になることで、「私はHSPだから」と、社会や人生のタスクから逃げる言い訳に使われてしまうことを私はとても危惧しています。

かつての「アダルトチルドレン」や「低い自己肯定感」と同じメカニズムを感じてしまいます。

アーロン博士(それ以外の誰でも)が唱えたHSPに当てはまったとしても、社会と関わっていくことからは逃げないでほしいと思っています。

「生きづらさ」の原因が生まれつきの特徴にあるのか社会にあるのかを問わず、「生きづらさ」を乗り越えるために、少しだけ自分を変える努力をしてもいいのではないかと私は考えています。

HSPとカウンセリング

HSPは治るの?カウンセリングとの関係について

「HSPはカウンセリングを受けたほうがいいの?」

実は、この問いに答えることはできません。なぜかというと、先にも述べたようにHSPは病気や障害ではなく単なる特徴だからです。

「HSPはカウンセリングを受けたほうがいいの?」という問いは、「とても背が高い人はカウンセリングを受けたほうがいいの?」という問いと同じくらい的外れです。

とても背が高いことについて何も悩みがないのであればカウンセリングを受ける必要はありません。

同様に、アーロン博士の本を読んでHSPに当てはまった方であっても、「強い生きづらさ」を感じていないのであれば、メンタルクリニックを受診する必要はありませんし、治療的なカウンセリングを受ける必要もありません。

「HSP」を診るのではなく、「ストレス反応」を診る

HSPであってもなくても(背がとても高くてもそうでなくても)、精神症状が出て初めてメンタルクリニックを受診しますし、「生きづらさ」があり、生活に支障が出ていて、自分だけでは解決できないときに初めて治療的なカウンセリングを受けることになります。

ちなみに、HSPを治すことができるカウンセリング技法というものは存在していません。なぜなら、敏感な神経を鈍感にする安全かつ合法的な方法が、この世に存在しないからです。

では何をするのかというと、生きづらさの原因を1つひとつ詳細に分析して行動を変えていくだけです。

敏感に反応する神経が生きづらさの原因ということであれば、神経の反応によって生じる解釈と行動を分析し、最終的には「健康を害さない合理的な行動に修正していく」ことになります。

このアプローチはHSPでもそれ以外でも全く一緒です。具体的な「生きづらさ」に対して、具体的な「対処行動」を検討していくということです。

ただしこの時、生きづらさの原因が本当に「神経の反応」なのか、それとも「脳内イメージ」なのか、ここの鑑別は極めて重要となります。

※カウンセリングについて詳しく知りたい方はこちらの記事も併せてご覧ください。

HSPにこだわりすぎると適切な治療機会を逃すことも

とはいえ、「自分はHSPだが、生活に支障が出るほどの生きづらさは感じていない。だけど、今後のことについて考えを整理したい。支援してほしい」ということであれば、問題解決をサポートするカウンセリングを受けるのは問題ないと思います。

有能なカウンセラーであれば、ご本人の訴えや状況をしっかりと見極めて、問題解決をサポートするカウンセリングと、行動を修正するカウンセリング(心理療法)をきちんと使い分けてくれます。

もし病気や障害が隠れていたときには、もちろんちゃんと見つけてくれます。そして、より適切な治療や支援に導いてくれるはずです。

しかし、中には自分の好むカウンセリングスタイルに無理やり持ち込むカウンセラーもいますので気をつけてください。

HSPの特徴といわれるものは、それこそ星の数ほどもあります。

その中のいくつかに当てはまっただけで、HSPに特化したカウンセリングなるものを行うなんて、私の臨床経験からするとかなりヒヤヒヤします。これってちょっと乱暴なカウンセリングではないでしょうか。

HSPにこだわるあまり、隠れている病気や障害など、必要な治療や支援の機会を逃すことにも注意しなければなりません。

※見逃されやすい精神疾患についてはこちらをご覧ください。

今やメンタルヘルスの分野でHSPはビジネスチャンスになっているようです。

HSPに対応するからといって、標準の治療やカウンセリングよりも費用が高額になることは、本来ないはずです。

いろいろと試してみることは否定しませんが、科学的な根拠が乏しいサービスに多額の費用を投入することは避けてほしいと思います。

▶関連情報:「HSP限界サイン」についてはこちらをご覧ください。

まとめ

HSPの概念を再確認するとともに、HSPブームの注意点と、カウンセリングとの関係について考察してみました。

私は昨今のHSPブームに2つの懸念を持っています。

ひとつは、自身の「生きづらさ」にHSPという概念が与えられることで、社会的なタスクから逃げる言い訳に使われること。

もうひとつは、科学的な根拠が乏しいサービスに多額の費用を投入してしまうことです。

この2点に十分注意しながら、社会と上手に関わり続けてほしいと思います。

▶HSPの関連記事はこちらにもあります。ぜひご覧ください。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。