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HSPあるある|本当に特性のこと?原因と結果の逆転を整理しよう!

(※2023年9月24日:追記更新)

いま我が国ではHSPがブームになっているようです。

書店に行けばHSP関連書籍がたくさん並んでいますし、SNSやネット上では盛んに情報が発信され、盛り上がりを見せています。

しかし、これらの情報に触れると、「おや?」と思うことがたくさんあります。HSPという概念のコア(核)が拡散しているようで、とても掴みどころのないものに感じるのです。

ここでちょっとHSPについて整理してみたいと思います。この掴みどころのなさを「HSPあるある」から紐解いてみたいと思います。

「HSPあるある」について

では早速、書籍やネット上にあふれる「HSPの特性一覧」、あるいは「特性の事例集」とでもいうべき「HSPあるある」を見ていきましょう。

まずは、HSPの「日常あるある」からどうぞ。

日常あるある

・外ではいつも気が張りつめている

・ベストな答えを探して瞬時に答えられない

・本音が言えない(言うと泣いてしまう)

・熱しやすく冷めやすい

・においで過去の記憶を鮮明に思い出す

・急な変更があると思考が停止する

・突然なにもしたくなくなる

・感動すると泣いてしまう etc.


↓次に「人間関係あるある」をどうぞ。

人間関係あるある

・相手の些細な一言で深く傷つく

・頼まれると断れない

・相性の悪い人といると苦しくなる

・瞬時に嫌な人を見分けることができる

・相手が鈍感だと不快になる

・相手の表情がくもると「嫌われたかも」と気になる

・欠点を指摘されると深く落ち込む

・誰かに意見を言うと泣いてしまう etc.


↓続いては「ポジティブあるある」です。

ポジティブあるある

・創造力が豊かで内的生活が充実している

・内的世界は力強く生き残る力がある

・とても良心的で間違いを犯さない

・学んだことに気づかずに学んでしまっている

・物事を深く多角的に考えられる

・誠実で責任感がある

・感受性が豊かで人にやさしい

・外向的で刺激を求めるタイプもいる etc.


↓最後に「ネガティブあるある」をどうぞ。

ネガティブあるある

・恥ずかしがり屋、臆病、怖がり、神経質、内気、自尊心が低い、自信がない

・頼みごとが苦手、苦情を言えない、内向的

・子供のころにつらい経験をしている

・罪悪感と羞恥心に苛まれてしまう

・トラウマを抱えている

・フラッシュバックやパニック発作を起こしやすい

・恐怖心と不安を感じやすく憂鬱になりやすい

・幽体離脱(解離)を起こし二重人格になりやすい etc.

「HSPあるある」は何を表している?

HSPあるあるは神経の特性ではなく物語

これらの「あるある」は、私が書籍やネット上で見かけたHSPを説明する文の一部です。

(ちなみに、「外向的で刺激を求めるHSP」というのは矛盾している気がします。また「ネガティブあるある」の中の下の4つは、何を根拠にHSPの特性としているのか全く分かりません)

本来HSPとは、「刺激に反応しやすい人」、「神経の敏感さ」を表すものですが、世間ではなぜか、これらの「あるある」がHSPそのものであるかのように語られています。

その結果、HSPとは次のような概念で捉えられているようです。

HSPとは、素晴らしい資質、感性、精神性を生まれながらに持っている選ばれし人だが、神経が敏感であるがゆえに社会的な生きづらさを抱えていて、精神疾患になりやすい

こんな、物語の主人公のような神経の敏感さがあるでしょうか。本来であれば次のような形で表されるはずです。

「HSPとは○○の働きにより、脳の○○の機能が○○になっているため、感覚器官からの入力に対する反応が高い、上位○%のグループである」

※出典:『HSPの心理学』 飯村周平著 金子書房


拡散する「特性一覧(あるある)」に秘められたメッセージ

神経の敏感さを表す概念があまりにもふわふわしているので、頭が整理されず、モヤモヤした感じになってしまいます。

そして、世間に流布しているHSP概念には、次の4つの大きなメッセージが秘められていることが分かります。

①HSPは素晴らしい
②HSPは生きづらい
➂HSP以外の人の存在が生きづらさの原因
④HSPには専門的な支援や治療が必要

これらのメッセージと、生物学的な神経の敏感さには、何の関係性もないように私には見えますが、とにかく何を読んでも、このようなメッセージがびしびしと伝わってきます。

HSPの特性とは、「素晴らしさあるある」、「生きにくさあるある」、「犠牲者あるある」、「精神疾患かもしれないあるある」によって示されているかのようです。

神経とは関係のないところで、意図的にこのような定義づけが進んでいるのかもしれません。

HSP診断テストもあいまい?

HSP診断テストも、国の内外を問わず様々な「専門家」から発信されており、書籍やネット上で気軽に試すことができます。

それぞれのテストには診断基準が示されており、自分がHSPに当てはまるのかどうか簡単に分かるようになっています。

しかし、(私が見つけた範囲内ですが)各設問の文章を読むと基準がとてもあいまいで、「主観的に自分がそう思えばそうなる」的なものでしかないように思えます。

かなり多くの方がHSPであると診断されるテストになっているのではないでしょうか。

また、本来は生物学的な神経の敏感さを測るものであるべきなのに、

①HSPは素晴らしい
②HSPは生きづらい
➂HSP以外の人の存在が生きづらさの原因
④HSPには専門的な支援や治療が必要

という、先ほど挙げたストーリー性のあるメッセージが、あらかじめ設問に埋め込まれているようにも思います。


※HSP診断テストを実際に試してみたい方は、スタッフブログ「HSPの診断テスト|正確な方法?HSPの基準より大切なこと」をご覧ください。

メディア上の「HSPあるある」で起きていること

原因と結果が逆転している

書籍、ブログ、SNSを問わず、HSPの情報に触れるたびに感じることがあります。

それは、

<HSPだから生きづらいのではなく、一人ひとりの生きづらさにHSPという概念をあとから当てはめているのではないか?>

ということです。

「HSPに該当するから生きづらさが生じている」のではなく、「生きづらさがあるのだから私はHSPだ」という、逆転現象が起きていると思うのです。

さらに、気軽に試すことができるHSP診断テストなるものは、生きづらいと感じている人を広くすくい上げられるように設計されています。

ということは、生きづらさを感じている人は全てHSPに当てはまってしまうということになります。

この世で生きづらさを全く感じない人は皆無だと思いますので、最終的には全ての人がHSPになってしまいます。

そう、原因と結果が逆転しているのです。

HSPとして生きることを選択してしまう

HSPを自認する人は、「HSPにしかない特性を有している人」ではなく、「自分はHSPだ」と決心してしまった人の可能性があります。

私自身はHSPに該当しないと思っていますが(信頼できる診断テストも存在していないですし)、上記で紹介した「HSPあるある」に、たくさん当てはまります。

すなわち私自身が、「よし、今日から自分もHSPだ」と決心しさえすれば、HSPになれてしまうということです。

しかも、「私の人生は生きづらさに彩られている」という、後ろ向きの生き方まで選択できてしまうのです。

HSP概念が人生の可能性を狭めている

HSPを自認する方は、HSPカテゴリーに自分を閉じ込めないでほしいと思います。なぜなら、人生の可能性を自ら狭めている可能性があるからです。

もし、日常生活や仕事に支障が出るほどの生きづらさを抱えているのであれば、HSPというあいまいな概念ではなく、具体的なその生きづらさに焦点を当てて、克服する努力をしてみても悪くはないと思います。

結局のところHSP現象とは何か

現在私たちが気軽に手に入れることができるHSP情報とは、結局のところ星座占いや血液型占いと変わらない、楽しむためのものであると感じます。

HSPとは人間の神経の特徴を表すものですから、行動遺伝学と矛盾しない神経科学による客観的な指標がきっとあるはずです。

研究の結果、信頼できるHSP診断法なるものが開発されるまでは(されないかもしれませんが)、今のブームに踊らされて人生の大きな決断をしないようにしたいものです。

ただ、世の中に拡散・流布している、

①HSPは素晴らしい
②HSPは生きづらい
➂HSP以外の人の存在が生きづらさの原因
④HSPには専門的な支援や治療が必要

という、何の根拠もないメッセージに便乗して、HSPを自認する人たちの財布のひもを巧妙に緩めようとしている人たちがいることには注意したほうが良さそうです。

HSP というものがあいまいだからこそ、怪しいビジネスが入り込む隙が生まれていると思います。

※出典:『HSPブームの功罪を問う』 飯村周平著 岩波書店


HSPブームの楽しみ方(注意点)

HSPブームをどのように楽しむかは個人の自由であり、私ごときが口をはさむ問題ではありません。

しかし、個人的なダメージが大きいという理由から、どうしても次の2点だけは注意喚起しておこうと思います。

①社会や人間関係のタスクから逃げる言い訳にHSPを使わないこと
②効果が怪しい商品やサービスに多額のお金をつぎ込まないこと

この2つに気をつけながら、HSPブームを上手に楽しんでいただきたいと思います。

まとめ

世の中に広く浸透している「HSPあるある」から、現在のHSP現象を紐解いてみました。

我が国のHSP現象とは、「誰でも当てはまるあいまいな診断基準によって、該当する人を広くすくい上げ、様々な思惑を持つ人たちが都合の良い価値観を押しつけているもの」かもしれません。

科学的な診断基準が発表されるまでは、占いのように楽しむためのツールと捉えたほうが良さそうです。

※HSPについてさらに詳しく知りたい方は、こちらのスタッフブログもご覧ください

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。