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職場のメンタルヘルス|ラインケアとは?目的と管理職の役割について

ラインケアという言葉をご存じですか?

ラインケアとは、管理職が行う職場のメンタルヘルス対策のことです。

「えっ、職場のメンタルヘルスを担当するのは産業保健スタッフじゃないの?」、「そもそも私たちは素人だよ」

そう思われるのもごもっともです。

しかし、職場のメンタルヘルスを推進する上で、管理職の担う役割はとても重要です。

そこでこの記事では、管理職が担うメンタルヘルス対策の重要性や目的、管理監督者の役割などについて解説していきます。

ラインケアとは~目的と意義~

仕事の指揮命令を行うライン上にいる管理監督者が、部下のメンタルヘルスの悪化にいち早く気づいて働きかけを行い、メンタルヘルスを悪化させるような環境を改善することを、産業精神保健の分野ではラインケアと呼んでいます。

労働者のメンタルヘルスを守るフェーズには大きく分けて4段階ありますが(4つのケア:後述)、その中のひとつを上司が担います。

上司というのは日常的に部下と接する機会を持っていますので、変化に気づきやすく、職場のメンタルヘルス対策の極めて重要な一翼を、第一線で担っています

職場のメンタルヘルス|4つのケア

職場におけるメンタルヘルスのケアには、

①セルフケア
②ラインケア
③事業場内部の専門家によるケア
④事業場以外の専門家によるケア

の4つがあります。

これらが継続的に機能することで、会社全体のメンタルヘルスの向上が達成されます。それではひとつずつ見てみましょう。

①セルフケア

従業員一人ひとりが自主的に行うメンタルヘルスケアのことです。

効果的にケアを行うには自らのストレスに気づく必要があります。しかしメンタルヘルス不調というのは自分でも気づかないうちに進んでいくものです。

したがって事業者は、ストレスチェックを行う時期などを見計らって、ストレスへの気づき方と具体的なセルフケアの方法を、研修などで情報提供することがとても重要となります。


※セルフケアの詳細は、スタッフブログ「メンタルヘルスとセルフケア|心の健康を向上させる方法と改善効果」をご覧ください。

②ラインケア

ラインケアについては、これから詳しく解説していきます。

4つのケアの文脈で言えは、上司は、部下が自主的に行うセルフケアに配慮するとともに、必要に応じて事業場内部の専門家にケアをつなぐ役割を担います。

③事業場内部の専門家によるケア

産業医や産業保健スタッフ、社内カウンセラーなどによるケアです。

相談や面談を通して、従業員のメンタルヘルス不調の予防や、事業場以外の専門家との連携を行います。

④事業場以外の専門家によるケア

医療機関やリワーク施設、カウンセリング機関、EAPなど、事業場以外の専門機関の支援を受けるメンタルヘルス対策です。

ラインケアを行う上で前提となる基礎知識

なぜ上司が部下のメンタルヘルス対策を行うのか、その根拠となる前提条件を説明します。

①安全配慮義務

安全配慮義務とは文字通り、事業者が従業員の安全に配慮する義務のことを言います。ここでいう「安全」には心身の健康も含まれます

この義務は「労働契約法第5条」(労働者の安全への配慮)に定められています。

従業員に損害が生じることを予測できる状態にあり、損害を回避する手段があったのに、その手段を取らなかった場合に、安全配慮義務違反となります。

罰則規定はありませんので、この義務に違反した場合は、民事の損害賠償責任を負うことになります。

②管理監督者の役割

ラインケアにおける管理監督者の役割とは、現場の責任者として「安全配慮義務を履行する」ことにほかなりません。

不調に陥りそうな部下に気づいたら、不調になることを防ぐ手段を取らなければなりません。そうしなければ、上司が安全配慮義務違反に問われる可能性が出てきます。

「部下の健康を管理するのは私の仕事ではない」と考えている管理職がたくさんいますが、そうではありません。

事業者は管理職研修を行うなどして、ラインケアの必要性を全ての管理職に理解してもらうことがとても重要となります。

部下への接し方(安全配慮義務の履行)

ここでは、ラインケアにおける部下への接し方、すなわち具体的な安全配慮義務の履行方法をご紹介します。

①いつもと違う部下に気づく

部下の様子がいつもと違っていて、「あれ?」と感じたら、それをしっかりと受け止めてください。元気がないだけではなく、逆に元気があり過ぎて「あれ?」と思った時も同じです。

「あれ?」と胸騒ぎがしたら、ためらわずに部下から話を聞いてください(プライバシーが守られる場所で)。

その結果、「不調がありそうだ」または「言っていることが不合理だ」と感じたら、本人に産業医面談を勧めてください(これが上司による安全配慮義務の履行になります)。

ちなみに最も重要な不調のサインは無断欠勤です。

無断欠勤が一定期間に一定回数を超えたら無条件に産業医面談を行うか、もしくは安全配慮義務の観点から出勤停止にするなどのルールを、会社として決めておくのも良いと思います。

②相談対応

部下から相談があったら可能な限り時間を作って相談に乗ってください。

アドバイスやあなたの武勇伝は後回しにして、先ずは部下の困りごとをしっかりと聞いて、解決策を部下と一緒に考えます。

あなたの価値観で説教することは御法度です。先ずは部下の訴えをしっかりと聞くことに専念してください。

普段から、「余計な問題を持ち込むな」という雰囲気を醸し出すのも、マネージャーとしては御法度です。

「困ったことがあったらいつでも相談に来い!」という気概を普段から見せておくことが、リーダーの重要な資質のひとつです。

③職場復帰支援

精神疾患で休職していた部下が復職してきたときに、支援や配慮を行うのは当然です。

精神疾患は目に見えないので分かりにくいのですが、例えば、肺炎や足の骨折が治って復職してきた部下を、仕事だからといって、いきなり走らせたりしないのと全く同じです。

では精神疾患において呼吸困難や足の痛みに該当するものは何でしょうか。

それは「不安」です。職場のストレスが原因で休職した方は、ほぼ例外なく強い不安を持っています

復職後に仕事をさせる時、「もしかしたら不安に思っているかもしれない」と想像して対応することがとても重要になります。

※なお、職場復帰支援について公的な指針などが知りたい方は、「ラインケア 厚生労働省」で検索するとたくさん出てきますので、そちらもぜひご覧ください。

全ての管理職に知っておいてもらいたいこと

①部下の健康もマネジメントの対象である

管理職になったときに、「部下のメンタルヘルスのケアもあなたの業務の一部である」と会社から言われたことがなくても、法的には業務の一部であるということを理解してほしいと思います。

ラインケアを疎かにした管理職は、部下から訴えられて被告になって初めて、安全配慮義務とラインケアの役割に気づきます。時すでに遅し、後悔先に立たずです。

利益を上げることも重要ですが、ラインケアの趣旨も理解していただき、感情を持つ人間である部下のメンタルヘルスにも、思いを馳せてほしいと心から願っています。

②上司自身が「不調の原因」にならないこと

ラインケアとは上司が部下のメンタルヘルス対策を推進することですが、実はその上司自身が一番、メンタルヘルス不調の原因になっています

労災支給決定件数のトップが「上司等のパワハラ」となっていることからも明らかです(※出典:令和3年度「精神障害の労災補償状況」厚生労働省)。

しかし、厚生労働省のラインケアパンフレットなどを見ても、「上司こそが不調の原因の可能性がある」とはどこにも書かれていません。一般的なラインケアの解説は、性善説に基づいています。

先ほど、「部下からの相談にはしっかり乗りましょう」と、しれっと書きましたが、不調の張本人である上司に、その不調を相談する部下などどこにもいません。

また、上司の言動が原因で、部下の様子が「あれ?」という状況になってしまっていては、それこそ身も蓋もありません。

上司の方には、くれぐれも不調の原因にならないようお願いしたいと思います。

まとめ

4つのケアの中で、職場のメンタルヘルスの向上に最も効果があるのは、ラインケアであると私は考えています。

なぜかというと、現場で部下の変化にいち早く気づくことができ、直接話を聞くことができるのが直属の上司だからです。

そのためには、上司自身が不調の原因にならないことがとても重要です。

言うは易しですが、ラインケア概念が少しでも浸透することによって、上司と部下のより良い関係が、我が国の労働現場に根づくことを願っています。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。