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勘違いでは済まない?善意と社内恋愛に潜むセクハラの落とし穴

皆さん、セクハラ対策はしていますか?

「もちろんです。男女を問わず『さん』づけで呼んでいるし、性的な話題は封印している。頭ポンポンなんて絶対しない。だから大丈夫!」なんて考えていませんか?

この程度の対策では、セクハラ加害者にならないとも限りません。セクハラの本当の恐ろしさは、問題の芽が思いもよらないところ潜んでいることです。

この記事では、どんなに気をつけていても生じてしまうセクハラの落とし穴について、メンタルヘルスの視点も交えてご紹介いたします。

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セクハラの定義と職場で求められる言動

初めに、皆さんすでにご存じだとは思いますが、セクハラの定義を簡単にご紹介します(改正男女雇用機会均等法)。

①性的な言動への対応次第によって不利益を受けること
②性的な言動で職場環境が害されること

併せてセクハラは、被害者の主観が重視されています。性的な言動を受けた人が「嫌だな」と感じればセクハラが成立します(もちろん一般的な男女の感性の範囲内で)。

他人の主観をコントロールすることは不可能ですから、セクハラ防止対策とは究極的には、

「職場の人に対して性を連想させるような発言をするな
「職場では、生物学的にもジェンダー的にも、性別にまつわることを言うな

さらに、
「不可抗力を除いて、職場の人の体に一切触れるな
「職場の人の体(足や腰、胸のあたり、ヅラやハゲ頭も)をジロジロ見るな

ということに尽きます(男女の別は問いません)。全ての社員がこれを守れば、理屈の上ではセクハラを完全に防ぐことができます

「自制できない系」の心理と対処法

しかし、世の中には相手の気持ちを察することができず、性的な発言をしてしまう人が一定数存在します。また、「さわるな」といくら言ってもさわる人が、残念ながら一定数存在します。

これは心掛けや研修、説教や説得で改善されるものではありません。言ってみれば「習性」のようなものです。当人が「何とかしなければ」と強く決心しなければ決して改善することはありません

このような「自制できない系」の人の特徴として、認知プロセスに大きな偏りがあることが分かっています。

人はある出来事を経験すると、脳のニューロンネットワークによって情報処理が行われ、その結果、次の行動を決めるための感情やイメージが意識に現れます。

「自制できない系」の人は、セクハラをしない人たちとは異なった枠組みの(性的な言動を善とする)感情やイメージが、意志とは無関係に生じていると考えられます。

現在のところ、人の認知プロセスを合法的かつ安全に変える方法は存在していません。

唯一の解決方法は、「性的な言動は善である」というイメージに気づきながら、当人にとっては「善ではない行動」を取っていくことになります(このお手伝いをするのが心理療法です)。そのためには、自分を変えたいという強い強い決意が必要なのです。

「自制できない系」のセクハラはどうしても起こってしまいます。起こる前提での対策が必要です。「自制できない系」のセクハラは、マニュアルに沿って粛々と処理するしかないでしょう。

事業者にお願いしたいのは、「自制できない系」の人間を管理職に登用しないでほしいということです。管理職は権力を持っています。権力を持つ人間が行うセクハラの破壊力は絶大だからです。

握手やハイタッチ、酔いつぶれた人の介抱はどうなるの?

励ます意味での握手やハイタッチもダメなのでしょうか。結論から申し上げると控えたほうがよいでしょう。身体接触が伴う限り、「気持ち悪い」、「嫌だな」と感じる人は必ず存在します。

忘年会などで酔いつぶれてしまった人の介抱はどうでしょうか。たとえ善意であっても、やはり異性が介抱するのは控えたほうがよいでしょう。同性が行うべきです。

ただ、LGBTQのケースまでを考慮に入れると、体の性が同じ人同士であっても戸惑うのではないでしょうか。介抱に身体接触が避けられないのであれば、性別を問わず誰であってもセクハラを申し立てられる可能性があるでしょう。

ここまでくると、セクハラを恐れて誰も介抱せず、そのまま放置されてしまうかもしれません。酔いつぶれた人の介抱は家族か恋人に頼むしかなくなってしまいそうです。

近い将来、飲み会で酔いつぶれること自体が、「セクハラじゃん」と言われる日が来るかもしれませんね。そのまた先には、飲み会そのものが廃止されるのかもしれません。

心臓マッサージや人工呼吸、AEDは問題ないの?

職場で緊急事態が発生してAED(自動体外式除細動器)が必要になった場合も要注意です。上半身の肌を露出させ、胸に電極パッドを貼ることになりますが、行えるのは同性の職員に限るでしょう。

AEDの処置を異性が善意で行い、幸いにも命が助かったあと、セクハラだと申し立てられる可能性はゼロではありません。

心臓マッサージと人工呼吸(マウス・トゥ・マウス)も同様です。命の恩人になるか、セクハラ加害者になるか、相手の主観次第とは恐ろしいことです。

私は法律家ではないので断定的なことは言えませんが、おそらく裁判になっても心臓マッサージや人工呼吸、AEDの使用が、セクハラ認定されることはないとは思います。

しかしです。

私は男性ですが、女性の胸を手の平で押している最中、マウス・トゥ・マウスの時、上半身の肌を露出させて電極パッドを胸に貼っている時、一瞬たりとも性的なことを考えなかったかと問われたら、「全く考えなかった」と言い切る自信はありません。

もし、そこを争点に訴えられたら。そう考えると背筋に冷たいものが走ります。

善意の救命処置とはいえ、命を救うためとはいえ、職場の異性に対して、胸を押し、マウス・トゥ・マウスを行い、上半身の肌を露出させる。あなたにはできますか?

LGBTQの可能性まで考えると一体どうすればよいのでしょうか。体の性が同じだからといって安心はできません。

これからの時代は、あとでセクハラ被害を申し立てられるかもしれないという覚悟を持って、職場で救命処置を行うことになるのでしょう。命にかかわることだけに、とても難しい問題です

恋愛がセクハラに変わるとき

男性だろうが女性だろうが、既婚だろうが独身だろうが、社内で上司という優越的な地位にある人は、部下との恋愛は控えたほうがよいでしょう。危険です。権力を持つ上司が部下と恋愛するのは一種のギャンブルです。

うまくいけば恋愛が成就してめでたく結婚ということも当然ありますが、破局を迎えると、哀れなセクハラ上司に成り下がって左遷、家庭崩壊、ついには退職ということにもなりかねません。

「そんなバカな、恋愛は自由では?」と思っているそこのあなた、裁判の現場では「そんなバカな」が現実になっているようです。一体どういうことでしょうか。

上司の持つ権力がセクハラを招く

上司と部下の関係で「本気」で恋愛をしていても、いずれ気持ちが離れるときが訪れます。

熱い恋が冷めてしまったとき、「どうして付き合ったのだろう。上司だから断れなかっただけかもしれない。もしかして、これってセクハラ?」と目が覚めるかもしれません。そうなるとセクハラが成立する可能性が高くなるようです。

部下からセクハラで訴えられた時に、「性交渉の時、拒否はなかった」は理由にならないそうです。相手が権力を持つ上司だからこそ、拒否できなかった可能性が潜むのです。

セクハラ裁判の現場では、部下側の主張が認められやすくなってきているとのことです。

上司と部下の恋愛は自由恋愛ではなく、必ず「支配-被支配」関係の上に成り立っています。スリリングな恋の駆け引きは、上司と部下という権力構造内ではなく、対等な立場の男女間で行われなければならないのです。

権力を持つ上司と従属的な部下の恋愛には、潜在的にセクハラの芽が潜んでいます。したがって最も効果的なセクハラ防止対策は、上司と部下の恋愛を禁止することです。

あるいは、理由を問わず上司と部下が社外で二人きりで会うのを禁止するほうが現実的でしょうか。

対等な関係、それが恋愛

上司の方に覚えておいていただきたいことは、完全に対等な立場の男女間の交際が恋愛で、上司と部下の間で行われる交際は、ロマンスで終わるか、それともセクハラに発展するか、それは時の運だということです。

上司が部下に心を惹かれ、真剣に交際したいのであれば、まずは対等な立場になることが必要です。それは上司が降格して平社員になるか、あるいは、どちらかが退職して利害関係を解消した時です。

そこまでの覚悟がないのであれば、上司は部下に決して手を出すべきではありません。上司と部下の恋愛は、どれだけ本気の恋愛であっても、「縁の切れ目がセクハラの始まり」だと心得てください。

部下からの誘いだったら大丈夫なの?

今私は、「上司は部下に手を出すな」と述べました。読者の中には「言い過ぎでは?」と感じた方もいるかもしれません。しかし、これには理由があります。

それは、「自身の精神の不安定さゆえに、結果的に異性を罠にはめてしまう精神障害」が存在するからです。

その障害とは、境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:以下BPD)です。いわゆるボーダーラインのことです。

BPDの病理を一言で表すと、「感情が不安定で激しく、操作性があり、同一人物に対して理想化とこき下ろしの間を揺れ動く精神障害」です。

この章では役職と性別を、明確に「男性上司」と「女性部下」に定めて話を進めていきます。

なぜかというと、私が精神保健福祉士として出会ったBPD患者の多くは女性で、なぜか皆さん美しい容姿を持っています。ころりと騙されてしまうのは男性が圧倒的に多いからです。

境界性パーソナリティ障害の恋愛事情

よくあるこじれパターンをざっくり解説しましょう。

BPDの女性は、もちろん好意があって上司を誘うのでしょうが、時には、「思い通りに操作できそうだ」と見抜いて近づいているとしか思えないケースもあります。

操作しやすい人を見抜くBPDの能力は天才的です。

とにかくBPDは美しい容姿をしていますので、誘いを受けた上司は悪い気はせず、つい誘いに乗ってしまいます。しかし付き合いが始まると、ほどなくして彼女の精神の不安定さに振り回されるようになって心が離れていきます。

そしていよいよ別れを告げるとBPDは豹変します(こき下ろしが始まります)。どんな手段を使ってでも引き留めようとします。自殺をほのめかし、リストカットや過量服薬を繰り返し、上司を翻弄します。

上司が既婚者であれば、「奥さんに全部ばらすぞ」と脅迫します。ここまで追い詰めてから、ついには「上司からセクハラを受けている」と人事に自ら告発するに至ります。うそをつくことにためらいは微塵もありません。

操作され外堀を埋められる

こうなると、上司には権力が備わっているのでとても分が悪くなります。結局は、セクハラが認定されるか、「セクハラがなかったとはいえない」という理由で処分されることになります。「誘ってきたのは部下の女性なのに!」と地団太を踏んでも後の祭りです。

「自分は権力なんて利用していないし、使ってもいない」と上司は言うかもしれません。しかし、その訴えは無力です。上司であるあなたには元々権力が付属しているからです。

BPDは上司に付属している権力をうまく利用して、関係者を操作し、上司に復讐します。BPDの巧妙な操作性を甘く見てはいけません。BPDにがっちり操作されたら逃げ道はありません。セクハラ男の烙印を押されて終わりです。

たとえ部下からの誘いだったとしても(全てがBPDということではありません)、やはり上司と部下という権力構造の中での恋愛には、セクハラに発展する危険性が潜んでいます。そのことを、上司(特に男性上司)は忘れてはなりません。

まとめ

ここまで述べてきたように、セクハラをゼロにすることは簡単ではありません。「自制できない系」あり、「社内恋愛ダークサイド系」ありです。

事業者は、セクハラはいつでも起こり得るという心構えで対策を行ってください。

そして、これはパワハラやマタハラにも通じることですが、管理職の持つ権力が、社内のハラスメントを深刻なものにしているということに留意して、管理職の登用については慎重に検討してほしいと思います。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
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