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大人の発達障害の特徴|症状・問題行動・空間認知・時間感覚から理解する

近年、「大人の発達障害」が注目を集めています。

それは、「職場の困った人」という文脈で語られます。

この記事では、発達障害を持つ人たちがどんな世界を生きているのかを知り、「困った人」と思われやすい特性を、正しく理解していただきたいと思います。

職場で起こる具体例を示し、分かりやすく解説していきます。

大人の発達障害とは?

もともと発達障害は、子どもの頃に特性が現れ、親や学校の先生などによって気づかれるものです。

生まれつきの脳の機能障害で、大人になって突然発症することはありません。

「大人の発達障害」とは、子どもの頃から症状はありましたが、学習面では問題がなかったため普通に学校を卒業し、就職して初めて大きな問題が表面化した人たちをいいます。

問題の多くは業務上のトラブルという形で現れます。学生生活よりも、責任がともなう職業生活でより大きな問題が生じます。

医療機関での診断をまだ受けていない人が大多数を占めています。

発達障害の診断基準と特徴

発達障害にはいくつかの種類がありますが、「大人の発達障害」として問題となるのは、次の2つです。

①自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD
②注意欠如・多動症(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder:ADHD

それではASDとADHDについて詳しく見てみましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準

ASDの診断基準は以下の通りです。(DSM-5)

A:複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥がある

B:行動、興味、または活動の限定された反復的な様式

C:症状は発達早期に存在していなければならない

D:その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている


診断基準から分かるように、ASDの特徴は以下の2点です。
①コミュニケーションの障害
②強いこだわり

それでは、ひとつずつ詳しく見てみましょう。

①コミュニケーションの障害

行間を読むことができない

ASDのコミュニケーション上の最大の特徴は、「言葉をその字づら通りに理解してしまう」ということです。

したがって、皮肉やたとえ話を理解することが困難です。

仕事で同じミスを何度も繰り返すので、「君にこの仕事をやらせたら日本一だな」と皮肉を言われても、「今まで叱られていたのに、なぜ急にほめられたのだろう」と混乱してしまいます。

しっかり理解してもらうためには、「君の仕事にはとてもミスが多い」と明確に伝えなければなりません

「頭を冷やせ」という言葉も上手に意味をつかむことができず、本当に水で頭を冷やしてしまうことがあります。

また、顧客が打ち合わせ時の持ち物を確認したとします。確認された本人が上司に、「お客様が持ち物を確認していますが」と報告し、上司が、「持ち物?パスモ(交通系ICカード)があればいいんじゃないか」と答えました。

これは、特に持ち物は不要という意味なのですが、本人はお客様に、「当日はパスモをお持ちください」と伝えてしまいます。

この様な抽象的な指示では意図を理解できません。

また、会議の場などで、行間の意味が隠されたまま、たくさんの意見が飛び交うと、文脈を追っていくことができません。いま何の話しをしているのか分からなくなってしまいます。

「先日の会議で決まった件、どうなってる?」と上司にきかれても、「何のことでしょうか」となってしまうのです。

想像力の欠如(他者の気持ちを想像できない)

相手の立場や気持ちに配慮した行動が取れません。社内の偉い人に対しても思ったことをそのまま口に出してしまうことがあります。

例えば、会議に3分遅刻してきた目上の部長に対し、「部長、3分遅刻してます」とか、課長から「ちょっと来てくれ」と言われ、「いま休憩時間ですけど」などです。

これは、いわゆる「天然」などの笑い話では済まされない、まさに周囲を凍りつかせる言動です。場合によってはその場で強い叱責を受けることになります。

時間感覚の欠如(過去・現在・未来を直線的に把握できない)

時間を、「過去から未来に向かうもの」ではなく、「バラバラに存在しているもの」と捉えているので時間が守れません

間に合わせるために急いだり省いたりすることが困難です。

例えば8時に待ち合わせをしたい時に、「8時に会いましょう」では遅刻してしまいます。

準備に1時間必要な人であれば、「7時に起きて準備を始めて下さい」と言わなければ間に合わせることができないのです。

悪意はまったくありません

ASDを持つ人に、「どうして何度言っても分からないんだ」と困り果ててしまうことがあるかもしれません。

しかし、自分を他者の視点で客観的に見ることができないのがASDです。

わざと周りを困らせているのではありません。悪気があってやっているわけではないということを、しっかりと認識しておいて頂きたいと思います。

②強いこだわり

上司の意向より自分のやりかた

ASDを持っている人は、物事の順序や進め方に本人なりの強いこだわりを持っています。

仕事を自分なりの理屈で進めてしまうので、予想外の成果物が提出されることがあります。

また、自分の好きな仕事しかしなかったり、急に仕事の変更や追加を命じられるとパニックになって怒鳴ってしまったり、といったことも起こります。

本人は悪気があってやっているわけではありませんので、そうしたことに注意や叱責が与えられても何が悪いのか理解できません

その結果、何度も同じことを繰り返してしまい、職場内でトラブルに発展することがあります。

周囲の評価と自己評価の食い違い

以上のような特徴を持っていますので、残念ながら上司や同僚からは次の様な厳しい評価が下ってしまうことがあります。

★指示した通りに仕事をしない。自分勝手だ。
★仕事は平均以下だが自己主張だけは強い。
★職場や会議の場でとんでもない発言をする。
★周りに迷惑を掛けているのに申し訳ないという態度がない。

などなど...

本人に悪気はまったくありませんので、「自分は真面目に一生懸命働いているのに、上司や同僚はそれを認めてくれない」、「それだけでなく、上司からはパワハラを受け、同僚からはいじめられている」と感じてしまうことがあります。

時には、「悪いのは自分ではなく上司、同僚、職場だ!」と、怒りをもってとらえてしまうこともあるでしょう。

以上の様に、上司や同僚の本人に対する評価と、本人の自己評価との間に、大きな「食い違い」が見られるということも、ASDの大きな特徴のひとつです。

ASDの人が見ている世界(空間認知の障害)

ASDを持つ人は空間を認知する機能が障害されていると考えられています。

同じようなものの中から特定のものを見分けたり(例えば、たくさんの赤いリンゴの中に混ざった1個の赤いトマトを見つけたり)、距離を推測したり、奥行きを把握したりすることがとても苦手です。

そのため、人や物にぶつかったり、整理整頓ができなかったり、あるいは人の顔を識別できなかったりします。

これは、健常者とは違う世界を見ていることを意味します。

ASDの人が生きる世界とは、過去も未来も、物事の前後関係も、そして他者の感情も、ぼんやりとした光の中に溶け込んでいるような世界かもしれません。

絶え間なく変化する現実の人間の表情よりも、アニメやぬいぐるみなどの変化のない顔に、より強く感情というものを見出しているかもしれません。

ASDの人は、「心理的にも視覚的にも奥行きのない世界に生きている」といえるでしょう。

こういった世界観を理解することが、ASDの言動を理解する近道だと思います。

ADHD(注意欠如・多動症)の診断基準

ADHDの診断基準は以下の通りです。(DSM-5)

A:不注意および/または多動性・衝動性の持続的な様式で、機能または発達の妨げとなっている

B:不注意または多動性・衝動性の症状のうちいくつかが12歳になる前から存在していた

C:不注意または多動性・衝動性の症状のうちいくつかが2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場、友人や親戚といるとき、その他の活動中)において存在する

D:これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせているまたはその質を低下させているという明確な証拠がある


以上よりADHDとは、①不注意②多動性③衝動性、を特徴とする発達障害です。

①不注意

見過ごし見逃しが多い/忘れ物が多い/ぼんやりしている/ミスが多い/作業が乱雑/ものをなくす/気が散りやすい/時間が守れない etc.

②多動性

そわそわと体のどこかが動いている/落ち着きがない/走り回る/じっとしていられない/静かにできない etc.

③衝動性

しゃべりすぎる/順番を待てない/後先を考えずに行動する/思ったことをすぐ口に出す/ひとのものを横取りする etc.


以上の3つの症状が目立つようになるのは幼稚園から小学校低学年の頃です。大人になるに従って、②多動性と③衝動性は目立たなくなり、①不注意が前面に出てくるようになります。

大人のADHDで中核となる症状は「不注意」と言ってもよいでしょう。

「不注意」が職場での問題行動となる

ADHDにおいて、職場で問題となるのは何といっても繰り返されるミスです。何度注意しても同じミスを繰り返してしまいます。

段取りができず大切な仕事を後回しにしたり、遅刻を繰り返したりします。長い説明や、同時にたくさんの指示を受けると混乱してしまいます。

大切な会議やお客様との約束などをすっぽりと忘れてしまうのも特徴です。一般の人が「まさか」と思うような大切なことでも忘れてしまいます

忘れないようにメモを取るようにしても効果は限定的です。せっかく取ったメモをなくしてしまったり、時にはメモを取ったこと自体を忘れてしまったりします。

すなわち、「忘れないようにしよう」ということ自体を忘れてしまうのがADHDの不注意です。

この様な特徴から業務に重大な支障をきたし、その失敗をフォローする上司や同僚はとても疲弊してしまいます

脳の入力フィルターが働かない

なぜミスが多いのでしょう。

私たちは、すぐ近くで大勢の人が話をしていても自分の話し相手にだけ集中することができます。

これは、脳のフィルター機能がしっかり働いて不必要な雑音を排除しているからです。

ところがADHDの人は、脳のフィルター機能が脆弱です。

全ての声や雑音、刺激がいっせいに脳に入ってきてしまいますので、頭の中が日常的に大混乱になっています。耳だけでなく目からの情報も同様です。

不必要な情報が目と耳からどんどん頭に入ってくるので、あるひとつのことに注意が向かず、ミスが起こると考えられています。

ADHDとは、「目と耳からの情報が多すぎる障害」とも言えるのです。

ミスをしてしまうのは、怠けているわけでも、誰かを困らせようとしているわけでもないということです。

まとめ

大人の発達障害について、職場での具体例を中心に見てきました。発達障害についてのイメージが今までより少し明確になったのではないでしょうか。

ASDを持つ人は、「心理的にも視覚的にも奥行きのない世界」に生きています。

ADHDを持つ人は、「目と耳から膨大な量の情報が流れ込んでくる世界」に生きています。

表面上は「どうして?」、「信じられない」と思わせる言動にもちゃんと理由があります。

本人に悪気はまったくなく、困らせようとして故意にやっているわけではありません。健常者とは違う世界を生きているということを理解していただきたいと思います。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
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