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仕事で精神疾患になるということ|種類と原因、診断と対応方法について

職場では過重労働や人間関係など、さまざまな要因で心のバランスを崩してしまうことがあります。

この記事では、職場でのストレスが原因で精神疾患を発症したケースを、私の臨床経験から分類してみました。

それぞれの原因と診断、対応方法についてまとめましたのでご紹介します。

職場における精神疾患の理解を深め、職場のメンタルヘルス向上の参考にしていただけると幸いです。

仕事のストレスに関係なく発症するもの

このグループに属する精神疾患はストレスに関係なく発症します。外部からの刺激よりも、遺伝的な要因が強いと考えられています。

統合失調症

陽性症状(幻聴、幻視、妄想、興奮、支離滅裂な言動など)と、陰性症状(無気力、感情の平板化、引きこもり、自分自身への興味の消失など)を特徴とする精神疾患です。

最も効果がある治療法は薬物療法です。

発症後のセルフケアの基本は、服薬の継続強いストレスの回避です。

妄想性障害

妄想(証拠を提示しても修正できない誤った信念)が主な症状です。

統合失調症に見られるような幻聴、幻視、支離滅裂な言動、感情の平板化、自分自身への興味の消失などは見られません。

妄想の内容は、「職場で悪口を言われている」、「PCに細工をされた」、「情報が抜き取られている」などです。

現実には何も起こっていないにもかかわらず、周囲に直接改善を要求したり、文句を言ったりすることで、職場内で問題になってしまいます。

病識を持つことが困難なため(治そうという動機づけが生じないため)、治療がとても難しい精神疾患です。

双極性障害(躁うつ病)

テンションが高い躁の状態と、うつ病と同じような抑うつ状態繰り返す精神疾患です。

抑うつ状態は、うつ病の症状と同じですが、躁の状態は、「破滅的な言動や大暴れ」が見られるⅠ型と、「いつもより活動的」なⅡ型があります。

薬物療法が第一選択となりますが、それに加えて、過活動を抑えるための疾病教育規則正しい生活が必須となります。

内因性うつ病

生まれ持った脳の機能の何らかの失調(内因)で、強い抑うつ気分、睡眠障害、意欲の低下、楽しみの消失などが生じる精神疾患です。

発症の詳細なメカニズムは明らかになっていません。

最も効果的な治療法は薬物療法休養です。

ストレスに関係なく発症する精神疾患への対処法

これらの精神疾患はストレスに関係なく発症します。

したがって、これらの精神疾患を職場が全て予防しようとすることは、生産活動そのものを制限する必要があり、不可能かつ過剰です。

とはいえ、一度発症してしまうと、仕事のストレスによって再発を繰り返したり、悪化させたりしてしまいます。

治療によって寛解(症状は治まっている状態)したとしても、再発予防のためのストレス管理は必要です。

職場の安全配慮義務と本人の自己保健義務の履行がとても重要になるでしょう。

これらと同じ病気を抱える家族や血のつながった親戚がいる方は、自発的にセルフケアを行うことが、発病を予防する第一歩となるでしょう。

この自発的セルフケアの重要性に気づいてもらうために、「新入社員向けメンタルヘルス研修」や「セルフケア研修」を実施することが効果的です。


※メンタルヘルス研修の詳細につきましては、「メンタルヘルス研修の目的と意義|効果的な研修の種類と内容について」をご覧ください。

自分で自分を追い込むタイプ(自爆型)

このグループは、客観的には強いストレスは存在していないにもかかわらず、本人だけが大変なストレスにさらされていると感じているものです。

その結果、自分を苦しめる行動を選択してしまい、精神疾患を発症してしまいます。

異動の直後や、未経験の仕事を任された直後、さらにはテレワークをきっかけに発症することが多い疾患です。

抑うつ状態

抑うつ状態とは、気分の落ち込みや意欲低下があるという状態を表しているだけで、病名ではありません。

例えば、風邪、インフルエンザ、肺炎など、さまざまな身体の病気で「発熱」が生じます。

原因を特定せずに全てをひっくるめて「発熱の状態」と言っているのと同じものが、「抑うつ状態」です。

どの精神疾患の診断基準も満たさない、あるいは病名を特定できないが、「うつうつしている」ので、診断名の欄に「抑うつ状態」と書かれます。

私の臨床経験では、多くの方が強めの不安を持っており、そのため業務遂行に脅威を感じ、メンタル不調に陥っているようです。

適応障害

この疾患は、明確なストレスが原因で、一般的な人よりも過剰にストレス反応が生じ、日常生活に支障が出てしまう精神疾患です。

発症のメカニズムは不明ですが、そもそも病気として扱っていいものなのかについても議論があります。

本来であれば、「受けたストレスに対して反応が過剰」である必要がありますが、受けたストレスと反応のレベルが了解可能であっても、適応障害の診断がつく傾向があります。

また、他の精神疾患に近い症状が見られていても、診断基準を完全に満たさない場合に、適応障害と診断されることがあります。

治療としては、症状に合わせた薬物療法(対症療法)が行われますが、それ以上に、心理療法による自己理解セルフケア(行動変容)が重要です。

全般性不安障害

身の回りで起こる些細なことが不安になり、行動を制御できなくなる精神疾患です。

テレワークをきっかけに発症・再発することが多い疾患です。

強い不安を持ちながらも、出勤することで不安を回避(同僚や上司に確認)できていたために発症・再発を免れていた方が、テレワークになった途端に発症・再発してしまうことがあります。

治療としては薬物療法が中心ですが、再発を防ぐためには、こちらも適応障害と同様に、心理療法による自己理解セルフケア(行動変容)が必要です。

高いストレスに自分の健康を犠牲にするタイプ(回避行動型)

いわゆる過重労働が原因で精神疾患を発症してしまうケースです。

タイトルに「回避行動型」と書いてあるので、タスクを回避してぬくぬくしているのではないかと勘違いされやすいのですが、全く逆です。

不安から逃れるために(こちらの回避行動です)、睡眠、休息、余暇を投げ出して仕事に邁進することで発症します。

さらに、個人要因だけではなく、失敗の許容度や相談しやすいかなど、職場の環境面の影響も大きいことは忘れてはなりません。

不安を伴う適応障害

業務量が増えるにしたがって不安が大きくなるという特徴があります。睡眠時間が減ってくると、自動的に不安が大きくなることもあります。

大きな特徴としては、もう無理なのに、仕事を断ると自分や会社、あるいは同僚に悪いことが起こると考えて、仕事を全て自分ひとりで抱え込むことで発症します。

治療は症状に対する薬物療法(対症療法)ですが、再発を防ぐためには、やはり心理療法によるセルフケア(行動変容)が重要です。

心因性うつ病

心因性のうつ病は心理的ストレスが原因で発症しますが、発症前に「過剰活動期」(踏ん張って頑張っている状態)が存在しています。

双極性障害の躁状態とは異なります。

躁状態は高揚感、誇大感、万能感などから行動が過剰になりますが、心因性うつ病の過剰活動は、不安や自責的な思い込みなどから生じます。

ちなみに、適応障害とはストレッサーから物理的に離れると急速に症状が改善しますが、うつ病はストレッサーから離れても、ストレス原因が解決しても、短期間で症状が改善することはありません。

人間関係の被害者型

多くは抑うつ状態または適応障害と診断されています。パワハラ被害や繰り返される叱責などが原因で発症します。

このグループに属する精神疾患は、人事管理や研修などで予防することが可能であると考えます。

言うは易しですが、社会が改善するために微力ながら一歩一歩、少しずつ貢献していきたいと考えています。

抑うつ状態/適応障害

「人間関係の被害者型」の多くは抑うつ状態または適応障害と診断されています。

加害者から物理的に離れても症状が改善しないほど深刻な場合は、うつ病と診断されます。

しかし、パワハラ被害の場合は本人由来の病気ではなく、生き物が持つ当然の自己防衛本能として、抑うつ状態が生じていると思います。

発達障害(ASD、ADHD)の2次障害について

こちらは、業務上の重要な伝達に食い違いを生じさせたり、何度も同じミスを繰り返すなどの発達障害の特性ゆえに、度重なる叱責(パワハラ含む)が原因で、2次的に精神疾患を発症するものです。

多くは抑うつ状態または適応障害と診断されています。

発達障害の2次障害の問題にどう対応すれば良いのか、という問いに答えることは容易ではありません。(※パワハラは即刻禁止ですが!)

なぜなら、労働とは何をすることかの国民的合意、ジョブ型雇用の導入(余計な気遣いが不要な専門職化)、成果と賃金のあり方、管理職スキルの向上など、話が壮大になってしまうからです。

しかし今すぐできることとして、「発達障害特性を理解すること」を提案したいと思います。


※大人の発達障害について詳しく知りたい方は、スタッフブログ「大人の発達障害の特徴|症状・問題行動・空間認知・時間感覚から理解する」をご覧ください。

このグループの疾患に対して思うこと

人間関係の犠牲者型の精神疾患は、本人由来の病気ではなく、心のケガ、すなわち傷害被害といえないでしょうか。

パワハラや執拗な叱責の被害者にもかかわらず、労災を申請せずに、自己負担のある健康保険を使って治療している人がたくさんいますが、私は違和感を覚えています。

しかし、これ以上は、私の専門領域を超えた社会的な問題になってしまいます。

法律家の方々には、人間関係の犠牲者型の精神疾患について、効果的な処置の方法を是非とも考えていただきたいと思います。

予防できる疾患とできない疾患

まず、内因性の精神疾患を完全に予防するのは困難です。

もし仮に、誰にとっても適度なストレスしか存在しない完璧な職場が実現したとしましょう。

これでメンタルヘルス不調がゼロになるかというと、残念ながらそうはなりません。

内因性の精神疾患というのは、それでも一定割合で発症してしまいます(例えば、統合失調症と双極性障害はそれぞれ人口の約1%:厚労省)。

一方で、自分で自分を追い込んでしまう自爆型は、研修や個別の相談で予防できる可能性が高まります。

さらに、過重労働や人間関係の犠牲者としての精神疾患は、労務管理や人事管理、研修で予防できるものだと考えています。

パワハラ、ダブルバインド、執拗な叱責による被害が我が国の労働現場から一掃されることが私の夢ですが、微力すぎてどこにも影響を与えることはできていません。

しかし、やっぱり、微力ながらも一掃できるように努力していきたいと思っています。


※パワハラ研修について知りたい方は、スタッフブログ「職場のハラスメント|パワハラ被害をなくす効果的な研修について」も併せてご覧ください。

まとめ

職場の精神疾患について原因別に解説してきました。

精神疾患の原因を知ることで、当事者の方には再発予防の手引きにしていただきたいと思います。

事業者の方には、予防できるものはしっかりと予防していただき、そのためには何が必要なのか、参考にしていただけると幸いです。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。