Column お役立ちコラム

パワハラ上司の特徴と精神疾患|横行する原因・対策・日本人について

我が国の労働現場でパワハラが猛威を振るっています。

「パワハラ」による労災決定件数が、令和3年度に125件でトップとなったのに引き続き、令和4年度においても147件でトップとなりました。

なぜ我が国ではこれほどパワハラが横行するのでしょうか。その社会病理をメンタルヘルスの観点から考察してみたいと思います。

パワハラの定義と行為類型

本題に入る前に、皆さんもうすでにご存じだとは思いますが、労働施策総合推進法で定められているパワハラの定義と、厚生労働省が定める行為類型について簡単に紹介しておきます。

※出典:『ハラスメントリーフレット』 厚生労働省


パワハラの定義

①職務上の地位や人間関係の優位性を背景に

②業務の適正な範囲を超えて

③心身に苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為


※①~③を全て満たす

パワハラの6類型

①殴る蹴るなどの「身体的な攻撃」(傷害罪です!)

②脅迫、侮辱、誹謗中傷、人格否定などの「精神的な攻撃」

③無視、仲間はずれなどの「人間関係からの切り離し」

④膨大な量の仕事を押し付けて責任を取らせる「過大な要求」

⑤仕事を与えず雑用ばかりさせる「過小な要求」

⑥プライバシーを監視したり暴露したりする「個の侵害」

精神疾患につながるパワハラ行為

ここで紹介するパワハラは、ついうっかり威圧的な態度をとってしまったとか、「上司のあの言動、よく考えたらパワハラだったのかなぁ」と後から気づくような代物ではありません。

その行為が即、被害者のメンタルヘルスに悪影響を与える、もしくは精神疾患にまで陥らせてしまうほどの悪質なパワハラ行為のことです。

相談・質問のたびに屈辱的な言葉で罵倒・人格攻撃する

このパワハラ行為は、

 「お前はバカか」
 「頭悪いな」
 「低能」
 「無能」
 「給料泥棒」
 「病気か」
 「死ね」

など、業務とは無関係な、部下の人柄や人格を侮辱するものです。

もし仕事で至らない点があったのなら、その至らない点と改善策を具体的に指摘すればいいだけで、人格と絡めて侮辱することには何の効果も意味もありません

このタイプの上司を持つと、言葉を交わすたびに非生産的ないちゃもんをつけられますので、ほんのちょっとした業務でも進捗させるのに膨大な時間が掛かってしまいます(決裁や承認に意味のない時間を要する)。

そして、「何でこんなに時間が掛かるんだ、お前は無能か」という、新たな攻撃のネタを与えることになります。とても悪質で普通ではありません。

ダブルバインド(二重拘束)

こちらは、他のコラムでも紹介していますが、矛盾した二つの選択肢を提示して、どちらを選択しても制裁(叱責、侮辱、罵倒)を加えるパワハラ行為です。

具体的には以下のような矛盾したメッセージの組み合わせとなります。

● 「勝手に判断するな」と「いちいち聞きに来るな」というメッセージのセット
● 「自分で考えろ」と「勝手なことをするな」のセット
● 「いちいち報告するな」と「何で早く言わないんだよ」のセット etc.

ダブルバインド上司は、部下を困らせるために意図的にダブルバインドを使います。要するに嫌がらせ目的です。

ダブルバインドを瞬間的に使いこなす激ヤバ上司の能力は天才的です。

過去に一度でもダブルバインドを使って部下を休職や退職に追い込んだことがある人間には、絶対に部下を持たせてはいけません。

ダブルバインドがメンタルヘルスに与える影響は甚大です。

ダブルバインドを掛けられて継続的に叱責や侮辱を受けると、逃げ道を完全に失い、どんな人でも数週間から数か月でメンタル不調に陥ります。

雪隠詰め・理詰め・詰問

このパワハラは、何を答えても、逆に答えられなくても、たとえどのような応答をしたとしても、ことごとく理屈をこねて揚げ足を取り、追い詰めていく行為です。

謝罪しても、その謝罪に対して理詰めの雪隠詰めが始まります。

 「謝って済む問題か?」
 「どうして謝った?」
 「何について謝った?」
 「その非は何だ?説明してみろ」
 「説明もできないのに謝ったのか」
 「やっぱりお前はバカだな」
 「じゃあバカじゃないことを証明しろよ」
 「早く証明しろよ」・・・・(延々と続く)

理詰めの雪隠詰めは大声で怒鳴る必要はありません。冷静に淡々と「詰める」だけで十分です。

被害者に何らかの精神的な異変(泣き出す、怒り出す、逃げ出すなど)が現れるまで、長時間にわたって「詰める」のが特徴です。

そして、この精神的な異変は後日、再度の「詰め」の口実に利用されます。こんな人間を絶対に管理職にしてはいけません。


※出典:『クラッシャー上司』 松崎一葉著 PHP新書


公開処刑・吊し上げ・見せしめ・晒し者

オフィス内や会議の場など、他の職員の衆人環視のもと、人格攻撃したり罵声を浴びせたりするパワハラ行為です。

辱めを与え、恥の感情によって被害者の心を痛めつけます。グループラインやccの入ったメールなどでも威力を発揮します。

さらに、公開の場で先ほどの理詰め・雪隠詰めを行うと、見せしめ度が上がり、メンタル面への悪影響も甚大となります。

衆人環視の雪隠詰めは、周りの職員への影響も大きく、パワハラ上司は絶対的な地位を確立していきます。

身体的な暴力

身体的な暴力も当然、精神面に甚大な悪影響を与えます。

これは犯罪行為なので刑事事件として扱いましょう。職場で暴力を目撃した方は警察に通報です。

宜しくお願いします。

パワハラ被害と精神疾患の関係

パワハラ被害を受けた方のカウンセリングを通して、精神疾患にまで陥った方には大きく二つの認知的な特徴があることに気づきました。

ひとつは、「悪い出来事の原因は私にある」という解釈やイメージが意識に現れるタイプです。

責任感が強く自責的で、激ヤバな上司から嫌がらせを受けているにもかかわらず、「私が悪いのではないか」、「上司の言う通りかもしれない」と考えてしまいます。

もうひとつは、「パワハラ被害から逃れるために誰かに助けを求めたら、もっと悪いことが起こる」という解釈やイメージが意識に現れるタイプです。

どちらものタイプも、相談をためらい、出口を見失い、恐怖におびえ続けることによって、精神疾患に陥っているようです。

嫌がらせによって逃げ場がないのなら、上手に助けを求めれば良いのですが、脳内の解釈やイメージがそれを許さず頑張り続けてしまうのです。

パワハラによる精神疾患とは、想像を絶する恐怖を「我慢」して突破した先に現れる、最終的に自分を守るための「自己防衛反応」だと思います。

現代人に求められる素晴らしい資質のひとつである「我慢強さ」を、パワハラ上司は巧みに利用しているのです。絶対に許せない行為です。

注意)
問題の主体は激ヤバな上司であって、被害者には何の落ち度も無いということは、ここで強調しておきたいと思います。

パワハラが精神疾患を生じさせるメカニズム

強いストレスによって、なぜヒトは適応障害や心因性うつ病、PTSDなどを発症するのか、実はその詳しいメカニズムは分かっていません。

ストレス反応であることは間違いないと思いますが、なぜ「抑うつ」なのか、その存在理由が分からないのです。

したがって、パワハラによって逃げ場を失うことで、なぜ抑うつ状態(憂鬱、不眠、意欲低下、喜びの消失など)に陥るのかを厳密に説明することも容易ではありません。

ヒトはそのように進化したとしか言えないのです。

また、パワハラは不安(バーチャル)ではなく恐怖(現実)です。したがってパワハラへの対処法は「逃げる」か「戦う」かしかありません

しかし職場では、「逃げる」ことは職務放棄、「戦う」ことは反抗または傷害に該当しますから、個人では対処のしようがありません(単独での解決は困難です)

そういう意味でもパワハラは、極めて深刻で卑劣な行為だと言わざるを得ません。


※不安と恐怖の違いについてはこちらをどうぞ。

激ヤバなパワハラ上司のゾッとする能力

ここまでお読みになり、「パワハラは悪だが、被害者が精神疾患に陥るかどうかは本人側の要因が大きいのか」と理解された方がいましたら、それは私の本意ではありません。

確かにパワハラによって精神疾患に陥った方には、先に説明した二つの特徴を持つ方が多いのは実感しています。

しかし、激ヤバなパワハラ上司というのは、ちょっとした視線の動きや表情の変化から、その人の性格や心の状態を一瞬で見破る天才的な能力を持っています(サイコパスなど)。

ゾッとする話ですが、効果的な被害者を巧妙に選んでいる可能性があります。メンタルを壊せそうな部下に的を絞って執拗に攻撃している可能性すらあります。

したがって、誰に対しても「いつも平等」にパワハラを行う独りよがり上司には、それほど強い恐怖は感じないと思います。(嫌なものは嫌ですけどね)

また、パワハラによって逃げ場がなくなったら、早めに退職する方がいますが、これは逃げているのではなく、全力で自分の心身の健康を守っているのだと思います。

「この上司やばい!」、「こんな激ヤバ上司を野放しにしているなんて、この会社やべぇ!」と考え、「メンタルやられるなんてまっぴらごめんだ」と判断して、早々に退職しているのだと思います。

これらも瞬間的に意識に現れる解釈やイメージですね。


※激ヤバなパワハラ上司の精神病理については、こちらも併せてご覧ください

日本でパワハラが横行する背景と原因

我が国の労働現場から一刻も早く激ヤバなパワハラが消滅してほしいと願っていますが、一向に減る気配がありません。

その原因を、日本の組織の文化、風土から考察してみたいと思います。

我が国における組織風土と文化

それにしても、どうしてこんな激ヤバなパワハラが起こり続けるのでしょうか。その原因と対策を私なりに考察してみたいと思います。

日本の組織は能力ではなく単なる年次で偉くなります(本当は立場が異なるだけで偉いというのは勘違いなのですが)。そして単に「偉くなる」を通り越して、絶対的存在になっていきます。

そして上司から見て部下とは、何でも言うことを聞く下っ端になってしまいます。

もちろんそんなルールが存在しているわけではなく、また、全ての上司が、部下を下っ端として見ているわけではありません。

ただ、部活の「監督vs生徒」や「先輩vs後輩」のように、「絶対的存在vs下っ端」という概念は、文化、風土、しきたりとして我が国の組織に根強く存在していると思います。

部下を下っ端や奴隷のように扱う上司が現れても、日本人であれば特段驚かないということが問題なのです。

その結果、ある一定数、激ヤバなパワハラ上司が登場(精神病理が開花)してしまうのではないかと感じています。

職場という場所は本来、仕事を前に進めることを使命とする場所であり、「上司が威張って言うことを聞かせる場所」でも「しごきによって部下が苦労する場所」でもありません。

パワハラ上司の管理監督者が何もしていない

もうひとつの問題は、パワハラを行う職員の上司に当たる人の事なかれ主義です。

自分の部下がパワハラを行っていて、精神疾患で休職したり退職したりする人が続出していても、その上司(パワハラ上司の上司)が全く困らないのであれば、何もアクションを起こさないでしょう。

自分が安泰であれば、下位の領域で騒動が持ち上がっていたとしても、仕事が増えるだけですから、対処しようとは考えないと思います。

「私の問題ではない」と考えているのかもしれません。

どなたも多忙で、本来業務である部下のマネジメントが全く機能していないのでしょう。パワハラ行為をやめさせるのも、上司の大切な仕事だと思います。

パワハラで処分を受けた職員の上司も、安全配慮義務違反としてしっかりと責任を追及される社会に、一刻も早くなってほしいと願っています。

パワハラのない職場を目指して

日本のパワハラ天国ぶりを解決するには、まず上司の理不尽(道理の通らない行為)を許容する文化との決別が必要です。

パワハラを減らすには、日本人が大好きな「スポーツ根性」に通じるメンバーシップ型雇用と決別し、ジョブ型雇用の導入が最低限必要だと考えています。

なぜなら、業務の範囲と内容を明確にして、それに見合った報酬を与えることで、年次ではなく組織の管理能力で上司なるものが据えられるからです。そう、管理職の専門職化です。

「組織に何年在籍しているから管理職になる」のではなく、マネジメントのプロが管理職になるべきです。

「パワハラ」という言葉で問題をひと括りにしない

最後にもうひとつ。

そもそも「パワハラ」という言葉が良くないと思っています。なんとなくぼんやりしていて、「よくあるいつものやつね」というニュアンスを感じます。

深刻さが薄まってしまうのです。

身体的な攻撃は傷害行為または暴行と正確に呼ぶべきです。精神的な攻撃は脅迫、侮辱、名誉棄損ときちんと呼ぶべきです。

全体を指す言葉にしても「パワーハラスメント」ではなく、「職場での嫌がらせ行為」とか「社内での連続虐待事件」など、実態に即した名称に変えるべきです。

言葉の重みから、行為の重大性を全ての方たちに感じてもらうことができると思います。

まとめ

激ヤバなパワハラを、精神疾患につながるパワハラとして論じてきました。

そして、パワハラで精神疾患にまで陥ってしまう方には、「誰にも相談せずに耐える」という共通した対処パターンが見られます(私の経験上です)。

今、逃げ場のないパワハラに苦しんでいる方は、すぐに信頼できる誰かに相談してください。助けを求めてください。意識に浮かぶ解釈やイメージは事実ではありません。

道は必ず開けます!

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。