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ストレスチェックの義務化内容|やっていいこといけないこと

2014年6月に労働安全衛生法が改正され、2015年12月1日からストレスチェック制度が義務化されました(第66条の10)。背景には精神障害による労災請求件数の増加があります。従業員が50人以上の事業場に実施の義務があります。

この記事では、ストレスチェックを行う上で重要となる義務、努力義務、禁止の各項目について解説していきます。

また、人事担当の方が一番頭を悩ませる「やっていいこといけないこと」もまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

実施義務がある「常時使用する労働者50人以上」とは?

本題に入る前に、「常時使用する労働者50人以上」の詳細についてご説明します。

「労働者」とは?

まず、ここでいう「労働者」には、パートタイムや派遣(派遣している)先の派遣労働者も含まれます。

衛生管理者や産業医の選任義務の条件と同じですので、産業医を探し始めたら、「ストレスチェックも実施しなければならないな」と思い出すようにしてください。

※産業医の詳細についてはこちら(厚生労働省のサイト)をご覧ください。

「常時使用する」とは?

ストレスチェックの対象者となる「常時使用する」の意味は、次のいずれの要件をも満たす労働者のことです(定期健康診断の対象者と同じです)。

①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む)であること。

②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。

事業者の義務項目

それでは、ストレスチェックで必ず行わなければならない義務項目について見ていきましょう。

1年以内ごとに1回、ストレスチェックを実施する

衛生委員会で審議して労使が合意すれば、1年に2回以上ストレスチェックを行うことができます。

また、定期健康診断と同時に行うことも可能ですが、その際はどこからどこまでが健康診断で、どこからがストレスチェックなのか明確に区別できるようにしておかなければなりません。

検査結果は速やかに受検者本人に通知する

事業者は、実施者または実施事務従事者を通じて、ストレスチェック結果を遅滞なく、受検した本人に通知されるようにしなければなりません。

工場などで紙のストレスチェック結果で通知する事業場は、誤配布などがないように細心の注意が必要です。

ウェブで実施すれば、その場でディスプレイ上に結果が表示されるので安心です。

医師による面接指導の実施

面接指導対象者から医師の面接指導を受けたいと申し出があったときは、事業者は遅滞なく面接指導を行わなければなりません。

なお、労働者には面接指導を受ける義務はありませんが、実施者または実施事務従事者は、面接指導対象者に対して面接勧奨を行うことができます。

※面接指導や面接勧奨の詳細についてはこちらも併せてご覧ください。

同意を得て入手したストレスチェック結果は5年間保存

労働者の書面または電磁的記録による同意によって、実施者から事業者に提供されたストレスチェック結果は、鍵の掛かるキャビネットまたは安全な電磁媒体内に5年間保存しなければなりません。

面接指導の結果を医師から聴取する

事業者は適切な措置を講じるために、面接指導を行った医師からの意見聴取を、遅滞なく行わなければなりません。

その際は、「通常勤務」、「制限勤務」、「要休業」などの措置の必要性の有無や、講ずるべき措置の内容などについて意見を聴かなければなりません。

医師の意見を検討して適切な措置を行う

事業者は医師の意見を検討した結果、措置を講じることが必要と判断した場合は、「就業場所の変更」、「作業の転換」、「労働時間の短縮」、「深夜業の回数の減少」などの措置を講じなければなりません。

また、措置を決定する場合には、その労働者と十分に話し合い、不利益な取扱いにならないように留意しなければなりません。

医師の意見書を5年間保存する

事業者は、面接指導を行った医師から提供された「面接指導結果報告書兼意見書」を5年間保存しなければなりません。

結果の報告

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、面接指導の実施後に、ストレスチェックと面接指導の実施状況を、所管の労働基準監督署に報告しなければなりません。

報告の際は「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第6号の2)」を使用します。

※詳しい実施の手順や流れについては、スタッフブログ「ストレスチェックの意味とは?目的や意義を分かりやすく解説!」をご覧ください。

努力義務の項目

次に努力義務の項目について見ていきます。

50人未満の事業場のストレスチェック実施

労働者が50人未満の事業場については、ストレスチェックの実施は現在のところ努力義務です。

しかし、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止のため、できるだけ実施することが望ましいとされています。

もしメンタルヘルス不調による休職者が発生しているのであれば、ぜひ実施することをお勧めします。

集団分析の実施

集団分析自体は、どこのストレスチェックシステムを使っても、集計機能があらかじめ搭載されています。

ストレスチェックを実施すれば自動的に集団分析が行われるようになっています。

したがって、その後の職場環境改善に取り組むかどうかが事実上の努力義務になると考えてよいでしょう。

職場環境の改善

事業者は集団分析の結果、健康リスクが高いと認められる集団(職場)について、労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければなりません。

※集団分析と職場環境改善の詳細については、スタッフブログ「ストレスチェックの職場環境改善は上司・管理職の改善!その方法とは?」をご覧ください。

禁止されていること

続いては禁止事項です。適切な実施のために遵守していきましょう!

管理職が実施の事務に従事すること

労働者に対して解雇、昇進、異動の権限を持つ管理監督者は、検査結果に触れることができる実施事務従事者になってはいけません。

これは、労働者が正直に答えることをためらったり、受検に不安を感じたりすることがあるためです。

ちなみに、これと同じ理由で、医師、保健師、精神保健福祉士などであっても、人事権限を持つのであれば実施者になることができません。

医師の面接指導を経ずに措置を行うこと

本人の同意により事業者に提供された個人のストレスチェック結果をもとに、配置転換等の就業上の措置を講じてはいけません。

医師以外の専門職の面接によって措置を行うこと

保健師、歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師、産業カウンセラー、臨床心理士など、医師以外による面接の結果をもとに、就業上の措置を講じてはいけません。

受検、同意、申し出を理由とした不利益な取扱いの禁止

①ストレスチェックを受けない労働者に対して不利益な取扱いを行うこと。

②ストレスチェック結果を事業者に提供することに同意しない労働者に対して不利益な取扱いを行うこと。

③面接指導の申し出を行わないことを理由として不利益な取扱いを行うこと。

面接指導結果を理由とした不利益な取扱いの禁止

①措置の実施に当たり、医師による面接指導などの法令上求められる手順に従わず、不利益な取扱いを行うこと。

②面接指導結果に基づく措置の実施に当たり、医師の意見や法令の要件を満たさない不利益な取扱いを行うこと。

③面接指導の結果を理由として、次の措置を行うこと。
(a)解雇すること。
(b)期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
(c)退職勧奨を行うこと。
(d)不当と判断されるような配置転換又は職位の変更を命じること。
(e)その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。


※出典:「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」厚生労働省



上記の出典で示したマニュアルは、実施に当たって最も参照される公的な文書になります。分量が多くて大変ですが、ストレスチェックに携わる方はしっかりと読み込むことをお勧めします(必読です!)。

やっていいこといけないこと

ストレスチェックに携わる方が必ず頭を痛めるのが、「誰が何をしてよくて、何をしてはならないのか」という問題です。

私なりに、事業者、実施者、実施事務従事者の「やっていいこといけないこと」を整理してみましたので、ぜひ参考にしてください。

事業者

先ずは事業者の「やっていいこといけないこと」です。

【やっていいこと】
○回答前の個人の調査票に触れること

○封をされた回答済み調査票の入った封筒に触れること…(※)

○封をされたストレスチェック結果の入った封筒に触れること…(※)

○受検者と未受検者それぞれの氏名を把握すること

○未受検者に受検勧奨すること

○書面か電磁的記録で同意を得た者のストレスチェック結果を閲覧すること

○個人を特定せず高ストレス者の人数のみを把握すること

○面接指導の申し出窓口となること…(※)

○面接指導に申し出た者の氏名を把握すること

○面接指導に申し出た者のストレスチェック結果を閲覧すること

○面接指導を実施した医師から発行された意見書を閲覧すること

○上記意見書に基づいて就業上の措置を決定し実施すること

○個人が特定されない方法による3人以上の集団分析結果を閲覧すること

(※)ルールとしては可能ですが受検者に不安を与えるので推奨しません


【やってはいけないこと】
●実施者及び実施事務従事者に個人情報を提供するよう強要すること

●未受検者に受検を強要すること

●ストレスチェック結果の事業者への提供に同意するよう強要すること

●事業者への提供に同意していない者のストレスチェック結果を閲覧すること

●高ストレス者の氏名を把握すること(同意している者を除く)

●面接指導の申し出を強要すること

●受検や面接指導及び集団分析の結果をもって従業員に不利益な取り扱いを行うこと

実施者

次に専門職である実施者の「やっていいこといけないこと」です。

【やっていいこと】
○全ての情報にアクセスすること

○高ストレス者の中から面接指導対象者を選定すること

○面接指導の申し出を勧奨すること


【やってはいけないこと】
●知り得た個人情報を事業者へ提供すること

●未受検者に受検を強要すること

●ストレスチェック結果の事業者への提供に同意するよう強要すること

●面接指導の申し出を強要すること

実施事務従事者

最後に実施事務従事者の「やっていいこといけないこと」をどうぞ。

【やっていいこと】
○全ての情報にアクセスすること

○未受検者に受検勧奨すること

○面接指導の申し出を勧奨すること


【やってはいけないこと】
●知り得た個人情報を事業者へ提供すること

●未受検者に受検を強要すること

●ストレスチェック結果の事業者への提供に同意するよう強要すること

●面接指導の申し出を強要すること

※実施者と同じです。

まとめ

ストレスチェックの義務、努力義務、禁止の各項目、および「やっていいこといけないこと」について解説してきました。

この記事を参考にして、ルールに沿ったストレスチェックを実施していただきたいと思います。

投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。