Column お役立ちコラム

元フジテレビアナウンサー渡邊渚さんの告白からPTSDを考察する

元フジテレビアナウンサーの渡邊渚さんが2024年10月1日、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症していたことを自身のインスタグラムで公表しました。

私がこのニュースに初めて触れたのは2024年11月末ですが、この時期はまだ、元ジャニーズアイドルとの問題がネット上で騒がれるかなり前でした。

ところがニュースを読み終わった時、「華やかさを売りにする立場の女性が、こんなことを告白して今後のキャリアは大丈夫なのだろうか」と驚いたことを覚えています。

PTSDに精通している専門家が今回のニュースに触れたならば、きっと私と同じことを思ったはずです。

実は渡邊渚さんの告白には、PTSDを理解する上でとても重要な情報がちりばめられていました。

さらに渡邊渚さんは、PTSDに関して詳しい知識をお持ちなのだとニュース記事を読み終わって感じました。

今回のブログは、読者の皆さまにPTSDを深く理解していただくため、私が初めてこのニュースに触れた時の驚きを、PTSDの診断基準の側面からお伝えしたいと思います。

※なお、この記事では、現在ネットを賑わせている芸能事務所とテレビ局のスキャンダルには立ち入りません。あらかじめご了承ください。

PTSDについて

まず、PTSDの簡単な説明から始めていきたいと思います。

PTSDをひと言で表わすと、「生命の危機に直面するような恐ろしい出来事を経験したあと、抑うつ症状と不安症状とフラッシュバックが一度に押し寄せる精神疾患」といえます。

PTSDと診断されるには厳格な条件があります。

それは原因となった出来事が、
 ・戦争
 ・激甚災害
 ・重大事故
 ・殺人未遂
 ・レイプ

といった、死に直面するような残虐なものに限られているということです。(残虐行為の目撃、近親者への残虐行為を詳細に耳にすることを含みます)

▶PTSDの診断基準やトラウマなど、より詳しい情報はこちらをご覧ください。


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複雑性PTSDについて

次に、複雑性PTSDについて簡単に説明します。

複雑性PTSDは、PTSDと同じ症状を呈しますが、経験した出来事の内容が異なります。

複雑性PTSDと診断されるためには、「逃げることが困難または不可能な長期または反復的な、極めて脅威的または恐ろしい性質の出来事」を経験していなければなりません。

具体的には以下のような出来事です。
 ・拷問
 ・奴隷制度
 ・組織化された大量虐殺運動
 ・長期にわたる家庭内暴力
 ・幼少期の反復的な性的虐待または身体的虐待
 ・上記に準ずる出来事の経験

これらの知識をもとに、渡邊渚さんのニュース記事の内容に入っていきましょう。

▶複雑性PTSDの診断基準はこちらをご覧ください。


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渡邊渚さんに関するニュース記事の概要

私が2024年11月末に読んだネットニュースの記事は以下の2誌です。

デイリースポーツ 『フジ退社の渡邊渚アナ PTSD公表』 2024/10/1
ENCOUNT 『PTSDを患った渡邊渚さん 語ったフジ退社までの経緯』 2024/11/16

上記のニュース記事に書かれていた内容は概ね以下の通りです。

◇◇◇◇◇
①2023年6月に体調を崩し、同年7月に入院した
②フラッシュバック、回避、解離、過覚醒、パニック発作など、様々な症状があった
③希死念慮もあった
④PTSDの専門的治療である持続エクスポージャーを受けた
⑤2024年8月31日でフジテレビを退社
⑥2024年10月1日、自身のインスタグラムでPTSDを公表
⑦病名を公表してこなかったのは会社から口止めされていたから
⑧正直に言うと、会社も関係するトラブルがあった
会社にトラウマがある
複雑性PTSDではない(両親から虐待された事実はない)。
◇◇◇◇◇


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複雑性PTSDを否定していることが意味すること

渡邊渚さんがPTSDを発症したということは、診断の条件である戦争、激甚災害、重大事故、殺人未遂、レイプの出来事のどれかを経験したことになります(過剰診断がなければ)。

しかし記事には具体的な出来事が書いてありません。唯一、「正直に言うと、会社も関係するトラブルがありました」と書かれていました。

会社も関係するトラブル?

真っ先に思い浮かんだのがパワハラです。私は瞬間的にそう思いました。

ということは、パワハラはPTSDの診断基準には合致しませんから、もしパワハラなら、主治医は過剰診断をしたことになります。

PTSDに似た症状が出ていることから、取り敢えずPTSDとご本人に伝えたのではなかろうかと思いました。

逃げ場がなく長期にわたる激烈なパワハラはPTSDではなく、複雑性PTSDに分類されます。正直なところ、「まったく日本の精神科医は正確な診断を行わないなあ」なんて思ってしまいました。

ところがデイリースポーツ誌の記事の最後に、ご本人のインスタグラム上の発言として、こんな記載がありました。

「※複雑性PTSDではありません。両親から虐待されたなどの事実もありません。安易な憶測によって家族への誹謗中傷が起きないよう、あえて記します」

ご両親からの虐待を否定する文脈での発言ではありますが、複雑性PTSDを完全に否定しているのです。

ということは、過剰診断ではなく真正のPTSDを発症したということになります。


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渡邊渚さんは何を告白したのか?

繰り返しになりますが、PTSDの診断には、経験した出来事が厳格に定められています。したがって渡邊渚さんは
 ・戦争
 ・激甚災害
 ・重大事故
 ・殺人未遂
 ・レイプ

のいずれかを経験したことになります。

我が国は現在戦争状態にはありませんので戦争は除外されます。

災害については、ご本人が体調を崩される2023年6月までの半年間に以下の災害が発生しています。
 ・線状降水帯の発生が2回
 ・震度5弱の地震が5回
 ・震度5強の地震が1回(千葉県南部/5月11日)
 ・震度6強の地震が1回(石川県能登地方/5月5日/死者1名)

しかし、渡邊渚さんがこれらの災害に巻き込まれたという情報はありませんし、被災者であれば、そもそも会社からPTSDという病名の公表を口止めされる理由もありません。

重大事故にしても同様です。

殺人未遂であれば事件化されているはずですし、警察発表があってもおかしくありません。

ということで、残された可能性はレイプのみとなります(消去法ですが)。レイプであれば、「会社も関係するトラブル」(仕事関係の人間によるレイプ)はありえますし、会社から病名の発表を口止めされていたことも納得できます。


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このニュース記事に驚いた理由

2024年11月末にこのニュース記事を読んだとき、「あ~、このアナウンサーさん、自分がレイプされたことを公表している」と思いました。そして、「まだ20代と若いのに大丈夫なのか?」と非常に驚きました。

その後の顛末は皆さんご存じの通りです(元SMAPのメンバーから何らかの被害を受けたらしい)。

お互いに口外しないという示談が成立しているとの情報もある中で、なぜあえて公表したのか、その理由はよく分かりません。

ただ、直接的に「レイプ被害に遭った」と公表しておらず(示談が成立しているため公表できない?)、PTSDに詳しい人が読み解けばレイプに辿り着くような公表の仕方をしています。

この公表の仕方に、とても良く練られた緻密さを感じます。

そんな詮索はともかく、渡邊渚さんは持続エクスポージャー(曝露法)を受けて体調が回復し、新しい分野での活動を始められているご様子です。今後の活躍をお祈りしたいと思います。

注意
なお、渡邊渚さんがレイプされたという証拠はありません。また、レイプを導き出すことができるのは、「過剰診断をしていないこと」が絶対条件になります。もし過剰診断が行われていたとしたら、あらゆる「怖い体験」が原因となり得ます。


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このブログでお伝えしたかったこと

私がこのブログを書いた目的は、元フジテレビアナウンサーが性被害を受けたことを考察することではありません。

このブログを書いた真の目的は、「PTSDと複雑性PTSDには厳格な診断基準が定められている」ということを知っていただきたかったからです。

「私はPTSDを発症した」と言うには、戦争、激甚災害、重大事故、殺人未遂、レイプを経験していなければなりません。

「複雑性PTSDを発症した」と言うには、拷問、奴隷制度、組織化された大量虐殺運動、長期にわたる家庭内暴力、幼少期の反復的な性的虐待または身体的虐待を経験していなければなりません。

現実の恐怖を実体験したのちに発症するPTSDと複雑性PTSDは、特に有名人であれば、その被害について社会の関心が集まることになります。

ある出来事を「社会問題化」するために、医療としてのPTSDと複雑性PTSDの診断を安易に利用する(社会問題を医療化する)ことはあってはなりません。


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まとめ

私は今、精神科領域での安易な診断(過剰診断)をとても心配しています。渡邊渚さんのケースでは正しい診断が行われているようでホッとしました。

しかし私は、仕事上のストレスで会社を休職している方の支援を長年行っていますが、誤診されていると感じるケースに頻繁に出会います。

様々な事情から、ご本人も納得の上で今の診断がついていると思いきや、ご本人に、自身の診断名についてどう思っているかを尋ねると、

「安易に誤った診断をつけられていると思う。私は、主治医が言う○○病(○○症)ではないと思う」

という答えが返ってくることが近年増えてきました。

今回、正しい診断をご本人に正確に伝えていると思われる渡邊渚さんの事例をもとに、PTSDと複雑性PTSDの正しい知識をお伝えし、正確な診断の重要性を強調してこのブログを終わりにしたいと思います。


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投稿者プロフィール

松村 英哉
松村 英哉精神保健福祉士/産業カウンセラー/ストレスチェック実施者資格/社会福祉施設施設長資格/教育職員免許
個人のお客様には、認知行動療法に基づくカウンセリングを対面およびオンラインで提供しています。全国からご利用可能です。

法人向けには、メンタルヘルス研修やストレスチェック、相談窓口の運営を含む包括的なサポートを行い、オンライン研修も対応。アンガーマネジメントやハラスメント研修も実施し、企業の健康的な職場環境づくりを支援します。